「きす、の、後のこと…?」



もう何でもいいから服を着てほしい。


薄目にも限界が来て、一旦目をきつく閉じるも松方は小さな沈黙を作ったまま。


それを不思議に思って恐る恐る瞼を上げると、松方の黒曜石みたく艶やかな黒目はあたしを見上げていた。



「意識されない」



ぽつりと、誰に対してかわからない言葉が落とされる。



意識されない?



とは。


「まつかた、いいから服着ないと。熱あるのに」



「竹永さん、ハルもいるし、男の裸とか別にって感じかと思ってました」


あたしが意識しすぎている所為で焚き付けてしまったのか、松方は松方で服なんてどうでもいいと言わんばかりに掠れ声を続ける。



「いや…別に、だよ。でも松方のは…違うじゃん…」



何でこんな事を言わされているのか。



「それは僕だけ意識しているって事ですか?」


何で松方はそんな恥ずかしい事を追求できるのか。



意識、しないわけないじゃん。


世界中でただひとりなのに。



「あーもぉぉ…そうなんじゃないの!」



「どうしてですか」



はぁ!? まだ訊く!? っていうかそれ訊く!?


カッと目を見開いて見たら、目下の松方は何とまぁ嬉しそうで、悪戯で——熱のせいも相まってか恍惚とした表情を浮かべていて、しまった、と直感。



「僕は」


「わっ」


「竹永さんの許しが貰えるなら——…いつでも」



突然腰を掴まれ天地が逆転。


どうやら押し倒され、あっという間に上に乗り上げた松方が眸だけで微笑った。



「あー…キスしたい」


その後マスク越しの真顔で囁かれ、色んな意味で背筋が震えた。



何か…何の薬が効いたのかそうは見えなくなってきたけど松方が高熱に侵されていてよかった気がする。


身の安全的な意味で。




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