「千里くん!?」
背丈は勿論伸びて、あどけなさが減ってしっかりした感じが外見に溢れ出ている。精悍というにはまだ幼いとはいえどたった三年そこらでこんなに大きくなるのかと驚いた。
ハルなんてこのくらいの時まだ平気で外で鼻ほじってたんじゃないか?
特にランドセルも背負っていない、身一つの千里くんは少し焦った様子を押し殺すようにぺこ、と会釈。
「お仕事中にすみません」
立派だ…。
「この子、下でウロウロしてたから声掛けたら『松方』だっていうから連れてきた」
「あの」
くまっちゃんと一緒に事務所内に進んだ千里くんはその一歩と同時にあたしに向かって口を開いた。
「ちーく——兄が今日、朝から体調悪そうで大学を休むと言っていて…さっき僕、学校が終わって一度家に帰ったら朝より辛そうで、それで、多分うわ言なんですけど『たけながさん』って聞こえたような気がして」
大人に混じった千里くんは自分で自分を落ち着かせてはっきりと伝えてくれたけど表情には不安が浮かんでいる。
「今日丁度タツキも誰も居ない日で、僕は部屋に入れてもらえなくて…すみません…」
その謝罪から、千里くんには千里くんなりの色々な葛藤があった上で此処に急いできてくれた事がわかった。
「ありがとう千里くん、教えてくれて」
歩み寄ってしゃがみ、云うと側にいたくまっちゃんが「松方、風邪? 育美ちゃん行ってきなよ」と口を開いた。
「私が代わるから」
「え、代わるって」
当然、もうくまっちゃんはバイトではない。
「ねー瑞樹」
くまっちゃんは瑞樹さんに振り返り、瑞樹さんは「えー。竹永、俺より松方の方行っちゃうの?」と頬を膨らませた。
「あー、センリくん?
さ、行った行った」
「でも」
「いいから。じゃあ一つ貸しってことで」
言いながらくまっちゃんはあたしと千里くんを出入り口まで押し運んだ。
「もう交代の時間でしょ。そんな顔して、心配でバイトに身入んないだろうし。ここはお姉さんに任せて、松方に宜しくねーセンリくんバイバーイ」
「あっ くまっちゃんありがとう…!」
——半ば強制的に二人を見送った後、すぐに瑞樹が「熊谷の『貸し』こわ〜い」と震え上がる素振りを見せた。
「ふふ。私あの二人が離れ離れになった時
「そうだ俺、熊谷にも敵対視されてるんだった」
「それにやっぱ松方には竹永が居ないと」
「居ないと?」
「面白くないじゃん」
「それな」
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