「やっぱりあたし、変わった?

もう松方が好きだった“竹永さん”じゃないのかもな」



こういう時って。


どういう表情かおするのが正解なんだろう。



目の前ではっとしたような松方の力が緩んで、その隙に身体の隙間から出た。



「竹永さん…っ」


別に逃げも隠れもする気はなかったけど何だか悲しくて、松方が引いた腕に引き寄せられて、

弱い力で胸を押す。


「離して」


「離しません」


ぎゅう…と抱き竦められる力はどうしてもあまくて、髪に触れる松方の頬が温かくて、「すみません」の謝罪が辛い。



「…僕は貴女を好きになったあの雪の日から一度も貴女を好きじゃなくなった瞬間はありません。これからも永遠にです。断言できる。でも貴女はそれを信じられないだろうから結婚したいんです。


『一生を懸けて』それを証明する為に」




「…重いわ、ボケ…」



「はい。すみません」


本当に悪いと思っているのか。


「臆病だなんて言ってすみません。俺…気が急いで。竹永さんを傷付けるとか…。殴ってください、気の済むまで」



「いや、それはいい。そこまでじゃない」



本当はそこそこ傷付いたけど。


松方が自分の事を『俺』と呼ぶなんてと心の中で補足した瞬間、目の前で自分の頬に拳を殴りつけた松方。


「!?」


目が飛び出たあたし。


「何…!?」



「あと、竹永さんは変わってません。出逢った時から宇宙一です。

より綺麗になられて気が気じゃないですがそれはこっちの問題なのでまぁいいです」


「いや普通に話続けんな!?」


「好きです。“好きじゃない竹永さん”なんてこの世にもあの世にも存在しません」



あ、あの世?


可哀想に、自ら殴りつけられた頬は朱く腫れ上がってきた。


「……」


ていうか松方に本気で殴られたらこうなるのか…と、ありもしないであろう未来にゾッとしつつ、そっと手の甲を添わしてみると早速その手を取られた。


「わかってくれましたか」


「うーん…。納得はできない、けど、あんたが結婚に拘る理由が少し解ったような?」



松方はあたしの手のひらに口づけして、「じゃあそれも、頑張ります」と頷いた。




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