「はぇ…?」



本当にこの男は、予測不可能だ。


押し倒してプロポーズとかまた新しいのかましてきたな…とぼんやり思うあたしの頭は松方の熱にやられていたけど何とか正気を保って「退いて」と見上げた。


「嫌です」


「あたしも嫌だ。松方、ちょっと一旦そこ座って。よく考えろ」


「よく考えた結果です」


退こうとしない松方を押し除けようと身体を起き上がらせるも、今度はベッドに手首を押さえつけられる。


「…松方」


溜息と一緒に呼んだ名前。見上げる先は、また、表情が読み取れなくなってきて不安になる。


「あたし、第二ボタンで充分嬉しかったよ。それよりももっと、松方がまた会いに来てくれた事が嬉しかった。本当に。まだ夢だって言われても信じるくらい」



自分の『結婚』という約束がそんな大層で価値のあるものだとは思わない。


松方が欲しいなら、そんなんで喜ぶならいくらだってくれてやりたい。


でも。


それで松方の未来を拘束するのは苦しいという我儘がある。



「竹永さん。僕が・・足りないんです。第二ボタンでは。ただ会いに行くだけでは。

貴女の不確かな未来も欲しい」



「だとしても、順序ってものがあるだろ。何でそんなに焦る必要があるんだ」



「順序? それは、その過程でまた別れる事になる可能性があるって言いたいんですか」



「は?」



松方に押さえつけられた手首は、痛くない。


外の世界では本降りになった雨が急かすように窓を叩いている。



「もう無理です。次 竹永さんと離れるようだったら貴女のお願いだったとしても、死にます」


「そういう事簡単に言うな」


「簡単にじゃない」


松方の眸は真剣だった。

わかってる。


あたしだって、次 松方と離れたら——



「竹永さん、そんな 臆病でしたっけ」



「……!」



鈍器で殴られたみたいに、心臓が重くなった。

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