「ま」


「ま?」


「ま——つかたって、家でスウェットとか着るの?」


何を聞いてんだあたしは。


松方だって何を聞かれてんだ僕はって顔してる(ような気がする)。


「はい。着ますよ」


着るんだ…!


意外だった。ちゃんと(?)パジャマっぽいパジャマ着ると思い込んでたわ。


「……」

「……」


沈黙。あたしは耐えきれず視線を逸らして松方の足元を見たけど、松方はこれ絶対あたしをガン見している。この距離で視線を感じないわけがない。絶対そうだ。


「何時間でも見ていられますね」


「あ、そ…すか」


何て返せばいいのよ?


「とりあえず、茶でも飲む? 持って来るから部屋入って待ってて。適当に、ベッドの上とか座ってていいから」


「……」


また、沈黙。というか目の前の松方が退こうとしない。


「え、何。退いて」


「…僕も手伝います」


「いや手伝うほどのことじゃない」と松方の脇を潜り抜けようとちょっと押したら、そのままぽす、と何故か腕の中に収まってたくさんの疑問符が頭上に浮かぶ。


「…だめだ」


「え? 何が? お茶取りに行くのが?」


「いやそうじゃなくて…。やっぱり帰ります」


「!?」


何で!? あたし何かしくじったか!?



一度は収めた腕を離して踵を返す松方。

あたしは咄嗟にその背中に飛びついた。



「……これは、どういう状況ですか竹永さん」



「何で帰るのか言え。そうしたら離してやらんこともない」



松方の背中は、前とは違う気がした。

見た感じだとそこまでがっしりして見えないのに、触れてみると厚みがある。


そんなことを感じている間言葉に詰まっていた松方は観念したように強張っていた身体の力を抜いた。


「仮に貴女の部屋で二人きりになる機会があるとしても、ご家族がいる時にしてください。

じゃないと」


「じゃないと何だよ」


「自制心が狂います。

気がふれる。頭がおかしくなる」


えっ


えーー。

それは怖い。松方が頭おかしくなったらどうしたらいいんだ。



「わかったよ」


あたしは、松方の腰に回していた腕を解いた。



「でも…帰らなくてもいいじゃん。


い、一緒に…いたい、し」



「!!!?」

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