第二十七話

「ただいまー」



薄暗さを感じる玄関にもしかしなくても誰かしらはいるだろうと踏んでいた予想は外れたか…?と電気を点けながら冷や汗をかく。



「お邪魔しま、うっ」


小さな呻き声が聞こえて、びっくりして振り返った。


「なに、どうした」


「竹永さん家…久しぶり…で何とも云えない感情に襲われています」


「へー…松方でもそういうのあるんだ〜」



玄関の棚からこういう時の為のタオルを取り出し、びしょ濡れになった靴、靴下を脱いだ脚を拭いてあがる。


腕も拭いて、取り敢えず頭に掛けたら胸を押さえたまま固まる松方に「新しいタオル取ってくる」とお知らせ。


「ありがとうございます」


戻ってタオルを手渡すと、松方が自分を拭くこの待ち時間が急に居た堪れない空気になった。

あたしだけの空気がな。



「…竹永さん」


松方は濡れた黒髪にタオルを掛けてわしゃわしゃと適当に拭いた後ワイシャツの胸ポケットに入れていた眼鏡も軽く拭いてかけた。


「んー?」


「もしかして今、此処、僕たち以外は誰も居ない感じですか」



気付かれたか…。



「居ない感じです…ね」


「帰ります」


「ちょちょちょ、待った待った、ごめ、ごめんて! 誰も居ないの狙ったとかじゃないから! 取って食おうと思って招き入れたわけじゃないから!! 本当に!下心とかないって!!」


急激に恥ずかしくなったあたしは帰ろうと引き返した松方の腕を引っ張る。



「…は?」



「えっ…?」



「竹永さんの下心とか…大歓迎ですが?」




えっ……??




「いや…本当に、待って…え?」



掴んだ腕が抜けた力によってするりと離れる。久々のこの感じにデジャヴと恐怖をセットで感じつつ混乱状態に陥ったあたしは肌の色が透けるほど濡れてしまっている松方にはっとして、「一旦…ハルの服あるから着替えようぜ」などと結局誘う形になった。

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