翠と別れて有難く使わせてもらう為に開いた傘は、彼の派手な見た目からは予想外な無地一色だった。


それが深い色だと見当付いて、何だかその主張に可笑しくなりながらそんな含み笑いも見つからないくらいには降る雨の中、校門を出て最寄りのコンビニに差し掛かった。


もうビニール傘を買う用事はなかったけど、スマホを確認すると松方と会う約束をしている時間まではまだ余裕があって。


予報では雨はまだ降らないとされていた事も知らないあたしは


松方はしっかりしているから傘持って出ているのだろうなと考え出したら今、会うまでまだ時間があると思ってコンビニに寄ろうか頭を過ったばかりなのに、もう少しでも早く会いたいような気がして、足早にコンビニを通り越して、


その先に見た姿に驚いた。



「…え。まつかた?」



Yシャツにスラックスの見慣れない姿だし、別の人かもしれない。いやでも今日、入学式だし——


眉を寄せ考えを巡らせた時間は短く、既に水溜まりも気にせず走って行って傘を差し出していた。



「やっぱり!」



見上げた姿は松方で、松方は、あたしが何で此処にと零す前に雫でいっぱいになってしまった眼鏡を取って「良かった」などと呟いた。


「さっき小雨の間に今なら行けると思って出たら、すぐ雨足が強まって。…屋根、なくて」



「〜〜っ」


折角の、ピカピカの松方がびしょ濡れになってしまってて心が痛んで言葉が出てこない。


拭いてあげたいのに傘どころかハンカチもタオルも持ってない自分をこんなに後悔した事はないかもしれない。


「ごめんあたし、タオルも持ってなくて」


「…! いや、竹永さんの服が濡れます」


袖を引っ張って顔を拭くも、すぐ手首を取られてしまう。



「それより」


松方の、色が白くて意外と男らしい指先があたしの手にしていた傘の柄を攫う。



「この傘、竹永さんのですか」

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