「あ、
翠——」
最後の講義が終わる頃には降り出した四月の雨は本降りになっていた。
所々で雨の話題が飛び交う中、教室からの帰路途中で窓の外を覗くピンクベージュの頭を見つけて声を掛けた。
「んー?」
うんざりといった様子で振り返られ、「傘なら貸さねーぞー」と舌を出された。
「ダジャレ?」
「ちゃうわ。何」
リュックを一瞥、帰りかと問うと今度は「違う。移動の帰り。こっちは後一限あんだよふざけんな」とちゃんと悪態をつかれてお疲れ、と笑った。
「いや、この前相談乗ってくれてありがとーって言ってなかったなと思って」
「おま…今更過ぎんだろ一瞬何の事かと思ったわ」
「だよね、ごめん。あの後結局メンズ館ではなかったけど無事買えましたありがとうございました」
ぺこ、と会釈すると「何も力になってねぇ気がするけど。ドウイタシマシテ」と降ってきた。
「なったよ。じゃ」
「待った」
「ん?」
「傘は」
「ない」
「だろうなおまえズボラ中のズボラだもんな。
…ん」
「いいよカンタ。コンビニで買うし」
リュックの脇ポケットから取り出され、目の前に突き出された折り畳み傘を丁重にお断りすると「カンタは折り畳み傘じゃねぇだろ」と更に近付いてきた。そこなんだ。
「竹永、絶対そうやってコンビニで買った傘増えていくタイプだよな」
「そうね。何なら三姉弟と母 皆そういうタイプだから家に傘はあげたい程あるよ」
「じゃー尚更これ以上増やすな。今なきゃ意味ないだろ。
コンビニまでで充分濡れんだよ」
心優しいカンタだが、まだ気軽には受け取れない。
「でもカンタの講義終わりまだ降ってるかもよ? 持ち主が濡れてまで借りていく程悪どくないわ」
「いや、俺は竹永と違ってマメな男だからちゃんともう一本傘あるのよ」
ドヤ顔でいいから早く受け取れと手に持たされ、今この前のお礼を云えたばかりなのにもう次のお礼云うような事があっては…と申し訳なくなる、も、ちらっと見上げた翠が傘を渡すまで講義に遅刻してでも引かなそうな面持ちだったためにしかと受け取った。
「声掛けたばかりに…結局傘貸してもらってるし。すまん。ありがとう
カンタ」
今度はさっきより深く頭を下げると「もういいわカンタで」と噴き出した笑い声が聞こえてきて、つられて笑った。
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