今の今まで松方くんの黒髪を艶やかに照らしていたお日様が雲に覆われ翳りを作ると、ついて行っても良いか問うた僕を従えて、再度桜の花びらが舞う中目的地へ歩みを進める。
「でも、どうしてこんな初日から図書館棟に?」
「ちょっと調べたい事があって」
初日から!?と、しつこいので心の中で驚いた。松方くんって、この表現が合っているかはわからないけれど大人びていて、勉強が憂鬱、とか試験が憂鬱、とかそういう“イヤイヤ”を見たことは愚か感じたこともない。
何だろう、そういう感情を無駄なものだと結論づけて端折っているというか。いつも目的が明確で、選択肢はそれに向かってやるかやらないかの二択のみというか。
「パーマ」
「へっ」
彼について考えを巡らせていると、流れに逆らった単語が飛び出してきた。何かと思って見上げると、松方くんは自分の髪を指している。
「
「あ…う、うん、そう!」
「似合う」
まさか松方くんに気付いてもらうとはという嬉しさと、高校から変わらない勤勉な彼に対して自分のこの明白な浮かれ具合にも気付かれてしまっただろうかという気恥ずかしさに襲われた間で、やっぱり「似合う」のストレートな言葉がそれらに打ち勝った。
「ありがとう、僕元々癖っ毛だし、そんな変わらなかったけど。浮かれちゃった」
高校は校則が厳しかったからか、春休みが明けて顔を合わせた持ち上がりの友人たちも染めたり何だりと雰囲気が変わった人が多くて。
「松方くんも…浮かれてたり?」
そんな中でいつも通りの松方くんは変わらず凄いなぁと一度は思った。けど、さっきの彼を思い出して訊いてみる。
「うん…浮かれてる」
「! タケナガさん?」
こく、と。言葉の代わりに頷く松方くんは「それもあってここで時間潰そうと思って」と続けた。
「どういうこと?」
「まったくの一人空間になると今本当に竹永さんの事しか考えられなくなるから」
厚い眼鏡の向こうの黒い眸は、翳って落ちていく桜の花びらを見つめている。
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