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☑︎side INUI
「松方くん!」
大学の入学式が終わった後、朝からずっと探していた姿を見つけて思わず声を掛けた。
人が集まっている箇所から離れて歩いて行く黒髪の彼を追い掛けると、言葉なく振り返って認識。立ち止まってくれた。
「卒業式以来だね…!」
ちょっと走ったから息が上がる。良かった、松方くんは卒業式の後も一切の名残惜しさを感じさせないまま帰っちゃったから今日も見つけられないかと思っていた。
「松方くん背高いからすぐ見つけられると思ってたけど、流石に人が多いね」
松方くんは黒いスーツに黒っぽい——と思いきや、春の陽の光に照らされて薄くブラウン?ベージュ?が浮かび上がるお洒落なネクタイをしていて、同性の僕から見てもこの先『入学式で見た格好良い人』として挙げられる未来が安易に予想できた。
学部は違うけれど、その推薦すらも早々に貰って、その後見事現役合格した他大の方が本命だと勝手に思っていたのに。
唖然とする僕に『あれは記念受験』と口にした松方くんの意向が、真意が、本当に理解できなかった。先生達は泣きながら考え直せと縋りついていたが当の本人は無理の一点張りだった。
少し目にかかるサラサラな黒髪の下の眸が僕を柔らかく映して「本当は今日も出る気なかったから、端の方に居た」と、見つけられなかった本当の理由を教えてくれる。
「出る気なかったって、入学式を…?」
「ウン、講義もないし」
「それは…不良っていうのかなぁ」
『不良』。ぼやぼや気の抜ける僕に、松方くんは口元だけで微笑った。
やっぱり今日 何だかご機嫌に見える気がする。
僕にもわかるくらい、というのは、卒業までの約一年半、高校生活を折り返した頃から松方くんはそれまでとは別人のようだったから。
基本は無表情だし、他の人からしたらいつもと変わりなかったかもしれない。でもわかり易く赤い炎より冷たく見える青い炎の方が実は高熱なように、触れてから大火傷を負いそうな危うさがあった。
「どこか行くの?」
「図書館棟」
きっと、松方くんをここまで変えることができるのは、世界中でただひとり。
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