☑︎Side MIDORI
今日最後の講義が終わって、教室を足早に出て行く奴、友人と駄弁り出す奴、机に突っ伏したままの奴、スマホをいじる奴——の、中に一人、見慣れた明るいロングヘアを見つけてリュック片手に席を立つ。
「竹永!」
真横まで歩いて行って覗き込むように声を掛けるも、見えた顔は「ムム…」とフキダシが付きそうな表情。
「んぁ」
その後すぐ俺に気が付いて不思議そうに見上げるから「おつかれ。席詰めてー」と奥に押し込んで座る。
ちょっとゴウインだったかと思いつつ「何してんの」と聞くと、何も気にしてなさそうに再度スマホと睨めっこする横顔が返ってくる。全部が竹永らしくて、それが無意識の内に安心に変わる自分がいて、ふと口元が緩んだ。
「いや…ネクタイと靴下と、良いのがあればタイピン探してて」
「男ものかー」
「どぅえっ」
「どぅえ?」
スマホを落としかけた竹永に首を傾げると、明らかに何でわかった、って顔しているから…ああ、この驚き方をするなら俺が思った“男”じゃないんだなと少し気が落ちた。
「いや、ネクタイとタイピンって来たら?」
「あー…そうか、確かに」
焦った自分に引いている。
誰にあげるものか、聞きたくねーな。
「
「俺?」
んー、あれは、どうだったかな…と、もう一方では別の事を思っている頭で背凭れに寄り掛かり、そのまま天井を見上げる。
「服とかいつもお洒落だから」
「ふは」
単純な自分がいやになる。竹永のその一言で、思っていた別の事はどこかに飛んで行った。
「俺のは母ちゃんがどっかで適当に買ったやつだったと思うよ。か、誰かのお下がりだな。靴下はあるものだしタイピンとか付けてなかったかも。
竹永の弟くんは? イケメンの。今春入学式じゃねーの」
「その手があったか。さっき思いついたばっかだったから——帰ったら聞いてみるか…ってことは翠のところも鷲沢…弟。入学式じゃん」
「だな」
クラスの違う竹永とは、丁度一年前の入学式頃、初めましてだった。
「この前の、彼氏?」
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