見上げた先には、ダッフルコートからここ1年で急激に懐かしいものになった学ランを覗かせる話題の中心人物、松方の姿。


当然のように不思議そうな表情を浮かべている。ブランクこそあれどまだこの無表情を見て不思議そうなのだと感じられて良かったと安堵する自分もいた。



「今日特に寒いですが…混んでいて中の席取れなかったんですね」



ドナチュラルに登場して語るんじゃないよ。

1年半のブランクはよ。



淡々と反射でほぼ見えないであろう店内を一瞥し、「でもそのお陰で見つけられた」と嬉しそうですらある。


やっぱり、また幾らか背が伸びたみたいだ。



「お久しぶりです、岬さん」


ぺこ、と長身を折り畳んで会釈。白目が多いままの岬も慌てて「そ、ね、大人になって」などと絶対それじゃない台詞の選択ミスをしている。



「「「……」」」



「あのー、椅子、良かったら」


「あ」


「うちベビーカーで要らないので」


謎の沈黙の中、背後から親切な子連れの女性が声を掛けてくれ、狼狽えたあたしに代わって岬がお礼を口にした。


「有難うございます」


再度会釈をした松方が椅子を受け取り自然とあたしたちのテーブルに着く形となった。



「あ〜〜っていうか、私の椅子を松方くんに授けるべきだったね!? ごめん気が回らなくて、動転してて」


「いえ、僕がお二人の話を遮ったので」


「いやいや、私らの話は全然積もってないから! 積もった方優先で! 私、この後講義あるんだよ今思い出したわよ」


動転しまくる岬の明らかな嘘にそれは流石に無碍な扱いだと止めようとするも岬は「いやいや育美、違うよ、私本当にこれを望んでた、これがしたかったの」などとあっという間に空のカップを持ったまま空いた方の手を振りながら走り去って行ってしまった。



「岬…」


「すみません」


「ぇ、あ いや」


「竹永さん見つけて…嬉しくて。何も考えず呼びました」



「…ぃゃ…」



この感じ。



この感じ、だ。とっくに大人びたように見えた松方は、変わってなかった。



それが、うれしい、なんて。




「何か、前もこんな事あった気がします」




思ったら、怒られてしまうだろうか。

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