第25話

――――





「フェ!?松方君が二」



二位、と言いかけて口元を押さえしゃがみこんだのは、実年齢より幼く見られることがいつも悩みの上位にいること自体が悩みの男の子。



「戌威心(いぬいこころ)君」


戌威心、17回目の春である。彼はいつこの悩みから逃れられるのか。



ゴールデン・レトリバーと揃う毛色をふかふかと松方の着席する机端から覗かせた彼は、両手で塞いだ口から「ごめぬ」と零した。



上部に『学力テスト』と書かれた紙を持った松方は一度だけ首を横に振り、既に実力だと納得していた脳内では愛しいひとのことを考えていた。



浮き立つ春にも染まらない黒髪が、ふわりと風に揺れた

その時、心の目の前がバイブ音と共に揺れ始め、びくりと驚いた彼は机から距離をとった。


松方はそれを特に気にする様子もなく机の端に置いてあった音源、スマホを持ち上げる。


因みに彼らの通う学園は原則携帯禁止である。



「松方君?」


電話?と聞こうとすると、表情を変えない松方はそれを耳へとあてた。



「はい」


「解ってます」


「はい」


「はい」



発せられた言葉の殆どは無機質な返事。しかしそれは繰り返されるごとにピリ、とした空気を含んでいくように感じられた。



電話を切った彼は再び沈黙に坐す。


その様子が落ち込んだように見えたのか、心はいわれのない責任を感じて「からおけいく?まつかたくん、からおけ」と小さな声で。


視線を上げた松方は今度は嬉しそうに「今日は」と口を開いた。



心はその一瞬で誰が理由なのか解った。

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