朝のホームルーム(5)
渡辺先生は、両手を教卓について、口を固く結び、考え込んでいた。
渡辺先生、どう出る? あなたにとっては、これは助け船なのでは? この流れに乗れば、あなたは自己保身ができるのでは?
「でもな、これはクラスの問題だと思う。全員で解決しなければならないことじゃないかな。このアカウントに目を通してしまった奴もいると思うけど、このアカウントには、あんまりよくないことが書かれているんだ」
……え、うそでしょ?
なぜ、そうなる?
なぜ、自分にとって不利な方向へ話を進めるんだ?
せめて、教師として望ましい態度をとり続けようとしているのか?
いや、待って。じゃあ私の気持ちは?
「よくないことって?」
「いや、やめろって」
「なんで? みんな興味あるでしょ」
「いいから……」
「まだちゃんとツイッター見てない人もいるよ! ねぇ、先生、そのスマホのアカウントの内容、クラスでちゃんと共有しない?」
「玉井!」
だめだ、渡辺先生。さらに、マイナスイチ。
にやにやしながら訊く玉井静香を白野青人が制する。
隣に並んだ二人は、こうして横顔を見ていると、綺麗に鼻筋がとおっているな、と思う。それだけじゃない。この二人の顔の造形は、とてもよく似ている。
二人とも、同じ素材でできたイケメンと美少女だと思う。男と女を分けているのは、僅かな線の太さと細さ。この二人が並んでいるのを見ると、心底隣にはいられない、と思う。
「クラスで話し合いをするなら、まずは情報を共有しないとさ?」
そう言って、玉井静香は渡辺先生のほうへと歩き出した。
まずい、まずい。渡辺先生、あの子にスマホを渡さないで。私はお尻にぐっと力を入れて、その様子を見守るしかなくなっている。
「おい、玉井」白野青人は彼女の背中を追いかける。
そう! その調子! その子を止めて!
「いいじゃん、座ってなよ」
肩を軽く触れられた白野青人は、驚くほど従順に席に戻った。その表情には、どこか気まずさがまじっていて、なんだか見ていられない。
「そしたら、玉井、とりあえずこのスマホはお前に預ける。朝のホームルームはこれで終わりにしよう」
……先生? 正気か?
そんなことしてどうする?
「続きは、道徳の時間にしようか」
「はぁい」
道徳の時間も続けるつもり?
……なんでそんなに先生が張り切ってるの! 自分が懲戒されてもいいのか! そのうえ、私の立場もどうでもいいと思っているのか! なぜ自分から、わざわざ危険な橋を渡りに行く! マイナスイチ!
ううん。それか、うまく作戦を練ったうえで、クラスのわだかまりをなくそうとしているのか。それなら、確かに表面的には教師らしい立派な行動だと思うけれど、真相が明らかになって、あなたが懲戒されたら本末転倒だろう。もう、あなたはこの居場所にはいられないんだよ。
あるいは、もしかして。先生にも、私との関係を認めてほしいなんて気持ちがあったりするのだろうか? もしくは、そのスマホの持ち主が私ではないと思っているのか?
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