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『一夜にして死者の国に……一体何が?』
新聞の見出しを飾る“沈黙の王国”と題された記事に、男はティーカップを片手に目を向ける。
『国民全員が謎の不審死』
『処刑されたソレイユ・シャイン姫の呪いか……?』
『行方不明となったセレーネ・シャイン王女は何処に!?』
憶測が飛び交う怪事件に世間が騒ぎ立てるなか、アナンは独りほくそ笑む。
「嗚呼、遂にだ……!」
昔からずっと思い募らせていた。
可愛く可憐な王国の少女に。
『アナン!』
名を呼ばれる度に、私は心臓を鷲掴みにされた気持ちになった。
真っ赤な髪が靡く度に、琥珀の瞳に見つめられる度に、彼女が私に触れる度に、私は彼女に惹かれ、欲は日に日に増していくばかり。
恋い焦がれてしまった衝動は、どうにも抑える事が出来ず。
『あ!アナン、紹介するわね?』
『私の婚約者【フィアンセ】のステラ・クラロスよ!』
「……は?」
私はあの日、過ちを犯した。
民衆から反感を買っていた魔術師【私たち】が王国と手を組んでいる事がバレたらどうなるかを知ったうえで噂を流した。
彼女の処刑は誤算だったが、何とか上手く事が進み、一度死んだ彼女を死者蘇生の秘術で生き返らせ、目覚めるまでずっと待ち続けた。
その間、自我を保つのにどれだけ苦労した事か……。
いっそ身体を暴いて、既成事実でもでっち上げた方が手っ取り早いのではと、募る欲望を抑えながら、けれども彼女の滑らかな肌を撫ぜながら目醒めを待った。
そして彼女が目覚めると、都合良く記憶を無くしていた。
「アナン……?」
私の名を呼ぶ彼女に視線を向けると、不思議そうな顔を此方に向けていた。
「何だい?ハニー」
「なんだか楽し気だったから……面白い記事でも載っていたの?」
「いや」
新聞を折り畳んで放り投げ、彼女の手を引き此方に寄せると、その愛おしい唇にキスを落した。
「ンッ……もう!」
「嫌だった?」
「ううん……好き、だけど」
頬を紅く染める彼女に微笑み、何度かバードキスを落としてその身体を抱き締めた。
嗚呼……この上なく満たされる。
彼女に記憶が無いと知った時、私の口は咄嗟に嘘を告げていた。
『君は私の婚約者【フィアンセ】だった』
『病で記憶の混濁がある』
『長い間、ずっと眠り続けていた』
そんな出鱈目を彼女は信じ、そして今、彼女は私の妻となった。
「手離すものか……絶対に」
やっと手に入れたのだ。
私の髪を優しく撫でる彼女の手に指を絡めてキスをする。
「愛してるよ……ソレイユ」
「私もよ。アナン」
これからは、何も知らない彼女と二人で幸せに暮らしていこう。
私は美しく微笑む彼女を抱き上げながら、そう心に誓った。
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