第17話 初ドロップ!

 目が覚めると、そこはいつもの草原ではなかった。


 ここは洞窟の近くだな。


 格好はいつも通りだけどな。


「ここにいるということは、俺は死んだんだよな。なんで殺されたんだ?」


「何かを飛ばしたのは見えたが、それがなんであるのかまでは分からなかった」


「そうか。まあ、なんであれ、いまは勝てなさそうだな」


「ええ、そうね」



 近くで寝ていたナワデシバラさんとサケニノさんが起きた。


「さて、これからどうする? 俺は草原でレベル上げをした方が良いと思う。そうしないと、何もできなさそうだからな」


「んぴょー」


 ナワデシバラさんが首を縦に振った。

 どうやらレベル上げに賛成のようだ。


「わたしも賛成でやんす! レベルを上げて、あの宝箱とモンスターを、ぶん殴ってやるでやんす!!」


「やけに好戦的だな」


「これも酒癖のひとつみたいだぜッ」

「まったく面倒なヤツだなッ」


「そうなのか」


「何を言っているでやんすか!? わたしはめんどくさくないでやんすよ!! わたしは気遣いのできる良い女でやんす!!!」


「はいはい、分かったよ」


 面倒な酔っ払いにしか思えないけどな。



「それじゃあ、レベル上げに決定だな。草原に戻ろう」


「んぴょー!」

「やってやるでやんす!」



 草原を歩いていると、紫の球体を発見した。


「まずはあいつを倒すとするか」


「了解でやんす!」


 サケニノさんがそう言った直後、紫の球体がフラフラし出した。


「ん? なんだ、あの動きは?」


 あんなの初めてだな。

 何か特殊な攻撃をしてくるのか?


「どうやら『アルコールシェア』が発動したようだぜッ」

「これであいつはマトモに動けねぇぞッ」

「攻撃のチャンスでッすよ!」


「ああ、あれがなのか。よし、やるぞ、ナワデシバラさん!」


「んぴょー!」


 俺は紫の球体に接近し、ナワデシバラソードでぶん殴った。


 紫の球体を倒した。



「お見事でやんす!」


「ありがとう」

「んぴょー」


「おい、お前ら、地面に何か落ちてやがるぞッ」


「えっ!?」


 紫の球体を倒した場所に、黄色く細い棒状のものが多数入った、透明なビニール袋のようなものが落ちていた。


「なんだこれは? 乾麺か?」


「確かにそう見えるでやんすね。美味しそうでやんす。さっそく食べてみるでやんす!」


「おい、待て! 乾麺に見えるだけで、実は毒かもしれないぞ! 湧き水の教訓を生かせ!!」


「そ、そうでやんすね……」


「シバル、こういう時は、それを持って『コメンタリーオープン』と口にするか、心の中で思え」

「そうすると、アイテムの解説が出るって、神が言ってたわよ」

「解説が出るのは、入手したアイテムのみだそうだ」

「解説を消す時は『コメンタリークローズ』だ」


「そんなのあるのか!?」


「んぴょーんぴょー、んぴょーんぴょーんぴょーんぴょーんぴょーんぴょー」

「『ゲームなら、アイテムの説明欄くらい普通にある』と言っているみたいデ~ス」


「それもそうか。まあ、とにかく、やってみようか。コメンタリーオープン」


 そう言った直後、俺の目の前にステータスウィンドウのようなものが現れた。



 名称

 ちゅるちゅるパープルラビットスフィアグミラビット麺(乾麺タイプ)。


 内容量

 300グラム。


 解説

 パープルラビットスフィアグミラビット(通称、パラスグラ)のノーマルドロップ。


 食料品。


 モンスターの名前が付けられているが、モンスターで作られているわけではない。

 原材料は小麦粉、かん水。


 つゆは付いていないので、自分で用意しよう。


 これだけでは栄養が偏るので、他の食材も用意すると良いぞ。


 食べ方

 袋を開け、麺を取り出す。

 麺を約5分間、じっくりゆでる。

 袋は食べられない。


 消費期限

 袋から出さなければ、腐らないので期限はない。

 出してしまった場合は環境次第。早めに食べた方が良いかもしれない。



「ええと、要するに、普通の乾麺なのか」


「なら、食べるでやんす!」


「ゆでる道具がないだろ。それに、つゆもないしな」


「くっ、こうなったら、そのまま食べるでやんす!」


「やめろ! そこまでするほど、追い詰められているわけでもないだろ!」


「んぴょーんぴょーんぴょーんぴょーんぴょー、んぴょーんぴょーんぴょー」

「『鍋とつゆが入手できるまで、保管しておきましょう』と言っているみたいネ~」


「そうだな。そうしよう」


「え~、いま食べたいでやんすよ」


「却下だ」



「保管なら、良い方法があるぜッ」

「『アイテムボックストッキングオープン』と言うか、心の中で思ってみなッ」


 アイテムボックストッキング?

 意味が分からなさすぎるが、やってみるか。


「アイテムボックストッキングオープン」


 俺がそう言った直後、足元に黒いストッキングのようなものが現れた。


「なんだこれ?」


「その中に、いくらでも道具を入れられるぜッ」

「取り出したい時は、取り出したいものを思いながら、手を突っ込むと取り出せるぞッ」

「使い終えたら『アイテムボックストッキングクローズ』と口にするか、心の中で思うと消えまッす」


「そいつはすごいな」


「便利でやんすね! ここもゲームっぽいでやんす!」


 いや、いくらゲームでも、ストッキングに道具を仕舞ったりはしないだろ。



「なんでストッキングなんだ? それに、ボックス要素がないのだが?」


「そんなの知らねぇぜッ」

「細かいことは気にしない方が良さそうでッす」

「役に立てば良いと思うべきだなッ」


「それもそうだな」



「んぴょーんぴょーんぴょーんぴょーんぴょー?」


「なんて言っているんだ?」


「『これを履くことはできないの?』と言っているみたいネ~」


「ええと、その場合はどうなるんでシ~タか?」

「神は何も言っていませんでシィタよ」


「中に吸い込まれるんじゃねぇかッ?」

「そうかもしれませッんね」


「その場合、中の人はどうなるんだ?」


「そこも分からんな」

「神は何も言っていなかったしね」


「なんか危険そうだな。履くのはやめておこう」


「んぴょー」


 ナワデシバラさんが首を縦に振った。



「あの紫色の球体は、こんな名前だったのか。訳の分からない名前だな。なんで『ラビット』がふたつもあるんだ?」


「意味なんてねぇんじゃねぇかッ?」

「そこも気にしない方が良さそうでッす」


「ああ、そうだな」



「んぴょーんぴょーんぴょーんぴょーんぴょー」

「『ノーマルドロップというのが気になる』と言っているみたいデ~ス」


「確かに、ノーマルがあるってことは、レアがあるのだろうか?」


「ありそうでやんすね! 入手しようでやんす!!」


「んぴょーんぴょーんぴょーんぴょー」

「『物欲センサーに引っかかりそう』と言っているみたいデェス」


「あり得る」



「ん? 手でんだ水の解説って、出せるのか?」


「それはどうなんだ?」

「分からないわ。試すしかないわね」


「川の水を飲む時に、解説のことを言ってくれれば良かったのに」


 そうすれば、危険物に気付いて、死なずに済んだかもしれないのに。


 いや、そうでもないか。

 結局、脱水で死ぬことになるだけだな。


「確かにそうデ~スね」

「なんで言わなかったのかしらネ~?」

「不思議デェス」


「解説のことを忘れてたのか?」


「うむ、そのようだ」


 他のみんなも忘れていたそうだ。


「そうなのか」


 みんな忘れるなんて、そんなことあるのか?


 もしかして、ドロップアイテムを入手しないと解禁されないものだったとか?


 どうなんだろう?


 まあ、いいか。

 気にしても仕方ないしな。



「さて、そろそろ次のモンスターを探しに行くか」


「んぴょー!」


「レアドロップちゃん、出て来てでやんす!」


「やめろっての!」


 本当に物欲センサーに引っかかるかもしれないだろ!

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