第18話 社会不適合者
「兄さん、何してるの?」
ワイバーンの肉に下味をつけているとめぐるが帰ってきた。
「ワイバーンで唐揚げ作ろうと思ってな。お前も食うだろ?」
「兄さん、こんな時にふざけてるの?」
俺の言葉を聞いためぐるの目がどんどんと鋭くなっていく。
「ほ、ほら、やっぱり怒られたじゃない!」
なんでお前が焦ってるんだよ。
「……まあ食べるけど」
「食べるんかい!」
城ヶ崎と世良が同時にツッコミを入れた。
「だから言ったろ? そういえばマネージャーと何を話してたんだ? 結構時間かかってたけど」
少なくとも10分以上は話していた筈だ。
そんなに話すことあるのか?
「兄さんの事で話してたの」
「俺のこと?」
「そう。ダンジョンを出てからの記者会見の事であったり、謝罪文のこととか、兄さんの処遇とか色々とね」
「俺の処遇!? 俺ってば無罪放免じゃないの?」
さっきの話では連れてこられた人には罪を受けない筈だ。
「本来ならね。でも兄さんは単独でワイバーンを倒せるくらい強いんだよね? だから冒険者組合としても困ってるんだって、戦力として迎えるか、ダンジョンから永久追放処分を下すか。この2つの意見で割れているみたい」
「えっ、どっちも困るんだけど……」
「冒険者になればいいじゃない。そうすれば正式にダンジョンに潜れるようになるのよ?」
「や、試験とかあるんだろ? そういうのめんどいしなぁ」
めぐるが試験を受けた時は分厚い参考書みたいなの何冊か買ってるの見たからな……
「はぁ……兄さん。分かってる? 兄さんは選べる立場にないの。冒険者組合が下した結果を受け入れるのが兄さんにできることなの」
「で、ですよね」
なんで城ヶ崎は私も分かってましたよって雰囲気出してんだよ。お前今俺に冒険者としての道を進めてきたばかりじゃないか。
「カケルがダンジョンから永久追放になったらミーも困るでしゅ。なんとかするでしゅ」
そんな事を話しているとメルルまで話に入ってきた。
「なんともならんだろ」
「メルル……ちゃんはなんて言ったの?」
ちゃんって……そういえばこいつ性別どっちなんだ? 今まで全く気にしてなかったけど気になるな。
また今度聞いてみよう。
「……俺がダンジョンから永久追放されたら困るからなんとかしろってさ」
「じゃあ、そうね……兄さんにも記者会見に出てもらおうかな。当事者として謝罪すれば多少は印象も良くなる筈だから」
「それはいいでしゅね。カケル、謝るでしゅ」
そういえばメルルの言葉はみんなにわからないけど、メルルは日本語分かってるんだよな。
ってそうじゃない。
「やだよ。てか誰に謝るんだよ」
「今回の騒動で心配した人や迷惑をかけた人達に対してよ」
「そんなの直接会って言えばいいだろ。お前と母さんと父さん……後は水瀬さんだっけ? その人らにしか心配も迷惑もかけてねぇよ」
「あのね、兄さん……今回の騒動でマスコミの人や世間の人達も心配したりしてたんだからね」
呆れたように言うめぐる。
「そんなの外野が勝手に騒いでただけだろ? そんな奴らに謝る必要なんてねぇよ」
「貴方本当に大人なの?」
ありえないようなものを見るような表情をしている城ヶ崎。その横には世良もドン引きと言った様子で立っている。
「そういうのが嫌で働いてなかったのめぐるだって知ってるだろ? だから俺はそういうのパスなの」
「ダメでしゅ。その会見とかいうのに出るでしゅ」
メルルが武器作りの時以来の険しい顔で俺をみてきた。こいつはこいつでどれだけ俺を強くしたいんだよ……
「嫌だね」
いくらメルルがそんな顔をしようとも嫌なものは嫌だ。別にダンジョンから永久追放になったとしてもまた、ブローカーとやらの手を借りて入ればいい。
今回2週間以上ダンジョンにいたが生活できることは分かったしな。わざわざ嫌な事をしてまで冒険者組合から許可をもらう必要なんてない。
「…………」
無言でメルルと睨み合う。
「はぁ、分かったわ。兄さん。じゃあ記者会見で何もしないでいいから私が頭を下げるタイミングで一緒に頭を下げて。それだけでも全然印象が違うわ」
「……まあそれくらいなら」
それだけなら別にいいか。
「ならそれでよろしくね。時間は明日の朝10時からよ」
「えっ、じゃあダンジョンから出ないと行けないのか?」
「当然でしょ……じゃあ私はその事水瀬さんに話してくるわ」
と言ってめぐるは、また外に行ってしまった。
俺も唐揚げをあげ始めるのだった。
「……なかなか上手にあがってるじゃない」
唐揚げをあげ始めて少ししてから城ヶ崎がやってきた。
「まあな。家事だけは家にいた時からしてたからな」
「へー、意外ね。貴方、社会不……いえ、そういうのしなさそうなのにね」
おい、そこまで言ったら社会不適合って言ってんのと一緒だぞ。
「逆だよ、逆。仕事したくないから家のことは完璧にしてたんだよ。俺の事ただのニートだと思うなよ。朝は5時起きて親の弁当を作り、朝ごはんも作る! 親が出勤してからは掃除や洗濯をして昼過ぎからは買い出しに! そして夜は次の日の弁当を軽く作ってから11時は就寝する! いわば専業主婦みたいなものなんだぞ?」
「……それだけ動けるなら働けばいいじゃない」
「やだよ。働いたら訳のわからない理由で怒られたりするんだよ。世良もそういう経験あるだろ?」
城ヶ崎はないかもしれないが世良はそういう経験してそうだ。
「馴れ馴れしいですね。まあ彼の言う事は分かりますよ。実際かなりストレス溜まるので……でもそれに折り合いをつけて働くのが大人なのでは?」
「じゃあ俺は子供でいいよ。よいしょっと」
話しながら唐揚げを一度火のないところに置く。
「貴方ねぇ……完成したの?」
「いや、今は肉を休ませてるんだ。これで仲間で火を通してから2度揚げすると美味しくできるんだぞ? 唐揚げ界隈の常識だぞ」
「唐揚げ界隈って何よ……はぁ、貴方さえ良ければ私が雇ってあげてもいいわよ。貴方は命の恩人だし、個人的に気に入ってるしね」
「いや!? むむむ!!」
断ろうとした瞬間めぐるに口を押さえられた。
「すみません、城ヶ崎さん。今兄さんは疲れて正常な判断を下せてないと思うの。だから返答は少し待ってもらってもいいですか?」
「は、はい……それは大丈夫ですけど……」
「っぷはぁ!? お前いきなり何するんだよ!」
俺がめぐるに怒るとめぐるは肩を寄せて耳を貸せという仕草をとった。俺はめぐるに耳を近づける。
「兄さんが、大手企業に入れる機会なんてこれが最初で最後なのよ。それを簡単に断るって正気なの!? この件はパパとママにも言うからそれまでは勝手に返事しないで!」
と、小声で言ってきた。
「いや、俺は……」
「分かった?」
抵抗を試みたがめぐるの鋭い視線によって俺は頷くしかないのだった。
「はい、おまち」
あれから唐揚げを作り、今はみんなでテーブルを囲っている。少し離れた位置に世良が立っているが何が何でも食わせてやる。
「いただきます! うぎゅ!?」
メルルがいの一番に飛び出したが俺は首根っこを掴んだ。
「お前猫舌なんだからいきなり食べたら火傷するぞ。ほら、お前の分はこっちだ」
予めちぎって冷ましておいたメルル専用の唐揚げを出す。
「おお、気がきくでしゅね! じゃあ改めていただきます! うまぁ〜でしゅ! 皮はサクサクで肉は柔らかくも歯応えがあって、甘いでしゅ〜」
今まで見た中で1番幸せそうな顔をするメルル。
「どうやら美味しいようね……」
それを見てもまだ食べたくないと言った様子の城ヶ崎。その判断は正解だ。メルルは馬鹿舌だから信用しないほうがいい。
チラリとめぐるを見る。
「じゃあ私もいただきます。……うん」
そして食べた感想はうん。だった。だが、手は止まっておらず唐揚げを次々と取る様子を見るに旨いのだろう。
これで安心だ。
「じゃあいただきます。うん、美味いな。味は鶏肉に近いけど、噛んだら噛んだだけ旨味が出てくる。これで店作れるな」
自画自賛したくなる味だ。素材がいいのが大きいが、この味ならそこらの唐揚げ屋に負ける気がしないぞ。
「え? そんなに美味しいの? じゃあ私も……っ!? アンタこれ凄いじゃない!! 素人の味じゃないわ! プロの味顔負けじゃない!」
舌が肥えてる城ヶ崎にも褒められた。
……ちょっと嬉しいな。
「由美! アンタも食べなさい!」
「わ、私もですか……ッ!? これは……」
一口食べた世良は大きく目を見開いた。そして夢中で食べ始めた。美味しかったって事でいいんだろう。
「兄さんの料理スキル前よりも進化してるね」
「まあお前が出て行ってからも料理は家事は続けてたからな」
「そう、なら料理人とか……」
「休みなんて殆どないし、師匠とかってわけわからんくらい厳しそうだし、絶対やだ」
そして、この妹抜かりない。
少しでも隙があったら俺をその道に進めようとしてくる。本当にやめてほしい。
そんなこんなで俺達は唐揚げを食べていくのだった。
ニートしてたら親に家を追い出されたので、ダンジョンに住もうと思う コーラ @ko-ra
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