第15話 ワイバーン討伐

「おっしゃ! いいぞ、メルル!」


 セカンドプラン、奇襲でダメならこっちも空を飛べを遂行中の俺達だが、思った以上に空を飛ぶと言うのは気分がいい。

 さっきは風で大空まで飛ばされたが、それとは違い風を感じることができる。


「なに調子に乗ってるでしゅか! いいでしゅか、ここから先、ミーはカケルを飛ばすことだけに集中するでしゅ。ワイバーンにその剣でトドメを刺すのはカケルの役割でしゅよ!」


「おう、分かってるよ」


 そうこうしている間に暴れ回ってるワイバーンに追いつきそうだ。


「メルル! 背中からはダメだ! 正面からの斬り合いに持ってくぞ!」


「分かったでしゅ!」


 メルルは俺の指示に従いワイバーンの正面に俺を運んでくれた。


「ギャオオオオオ!!」


「親の仇を見つけたみたいに叫びやがって……行くぞ!」


「はいでしゅ!」


 怒り狂ったワイバーンはこちらに向けて突っ込んできた。俺達もワイバーンへ向けてスピードを上げる。


「ガァァァァァ!!」


「ラァ!!!!」


 ワイバーンと交わる瞬間、相手の攻撃を避けて右手で翼を切りつけつつ、左手でロンギヌスを回収する。


「やっと、取り返せたな」


「ギャオオオオオ!!」


 翼にダメージを負ったワイバーンは高速飛行を諦めてその場でブレスを吐いてきた。


「カケル! ブレスがくるでしゅ!」


「上に上がれ!」


「分かったでしゅ!」


「太陽を背にするように逃げてくれ!」


「ぬぅーーー!!」


 火のブレスを吐き続けるワイバーンから、メルルが必死に逃げる。かなりギリギリだが、なんとかブレスには追いつかれていない。


「よし、今だ! ブレスの下を潜って一気に接近するぞ!」


「うぉぉぉ!!」


「くっ!?」


 メルルが頑張って俺の体を運んでくれるが、急激な方向転換に体がGを感じて裂けそうだ。


「でも……これで終わりだぁぁ!!」


 太陽と自分のブレスで俺達を見失っていたワイバーンの死角を付いてショートソードで首を真っ二つに切り裂いた。

 ワイバーンは断末魔を上げることなく力無く落ちていった。


「倒せたでしゅか?」


「首を刎ねたんだ。流石に大丈夫だろ」


「ふ〜……良かったでしゅ〜」


 安堵の表情で力を抜くメルル。俺の体もゆっくりと地面に近づいている。

 今回はメルルにかなり負担をかけてしまった。浮かぶだけなら簡単らしいが、俺と一緒空を飛ぶとなると魔力の消費が凄いらしい。


 まあでも元はと言えばワイバーンに絡まれたのはこいつのせいだし、俺は悪くないか。


 そんな事を考えている間に地面に着地した。


「ほら、これでも食って元気だぜ」


 ポケットから干し肉を取り出しメルルの前に差し出す。するとメルルは鼻をピクピクさせた後に干し肉に齧り付いた。

 手で持って飯を食わせてやるの久しぶりだな。皿が出来てからそんなことしてなかったもんな。


 空いてる方の手でメルルを肩から下ろして撫でてあげる。


「うむ。くるしゅうないでしゅ」


 最初の方は嫌がっていたのに、今は撫でることに抵抗しなくなっていた。

 これが野良からペットになるってことなのか? いや元々ドラゴンのところにいたらしい野良ではないか。


 そういえば、ワイバーンの肉って美味いのかな? ドラゴンなんて食べたことないから分かんねぇな。


「あっ! いたいた! おーい!」


 そんな事を考えていると先程の冒険者2人がこっちに向かって走ってきた。

 片方はちゃんとカメラを構えている。よくよく考えたら俺、密入国したみたいなもんだしカメラに映ってもいいのか? まあ出ちゃったもんは仕方ないか。ここで慌てる方が変に思われるだろう。


「凄いじゃない! ワイバーンの首を真っ二つにするなんて!」


「お、おう……ありがとう」


 突然近くに来られて困惑しながらも答える。


 にしても近くで見ると相当可愛いなこのツインテール。

 金髪も染めた色じゃないだろうし、目も青色だ。なのに日本人らしい幼さもあって人形のような顔立ちだ。ハーフだろうか?


「それでね! 聞きたいことがあるんだけどそのモンスターと喋れるの?」


「えっ、あ、おう……」


「やっぱり! あなた凄いのね! 私の名前は城ヶ崎みちるよ! よろしくね!」


「お、おう……俺は、安村翔だ。あー、そのカメラ回して」


「あっ、あー!? アンタがあの安村翔なの!?」


「えっ!? あの安村翔ですか!?」


「うるさいでしゅね!」


 カメラ回してるのに本名言っても大丈夫なのか? そう聞こうとした瞬間、カメラマンのお姉さん共々大声を上げた。メルルもご立腹だ。


「あの? 俺、有名人じゃないぞ。誰かと勘違いしてるんじゃないか?」


「いや、アンタは有名よ! 煌めく剣技、安村めぐるの兄にして、ダンジョンブローカーに依頼して免許もなしにダンジョンに入った大罪人、安村翔! 通りで見たことあると思ったわ!」


 煌めく剣技、安村めぐるって部分も気になるけど、それ以上に気になるところがある。

 

「は? ダンジョンブローカー?」


「アンタをダンジョンに運んだ罪人よ!」


 罪人……ってことは……


「まさかアイツ捕まったのか!? ッ! カメラ止めろ!」


「なにするんですか!? うっ、くさい……」

 

 すぐ気づいたが手遅れかもしれない。というか手遅れだろう。すぐさまお姉さんに飛びかかりカメラを取り上げて電源を落とす。

 

 えっ、今くさいって言われた?


「ちょっ!? なにすんのよ!」


「なにって電源を切ったんだよ! やべぇ、やべぇよ。この層に警察が来ちまう。メルル! 下の層に逃げるぞ!」


「あっ!? こら、待ちなさい!」


「急にそんなこと言われても動けないでしゅ……」


「な、なに!?」


 メルルが動けなければ道具の移動もできないし、下の層に行ったところで生き残れる気がしない。

 俺の足は自然と止まってしまった。


「お嬢様、すぐに救援を呼びましょう」


 お姉さんがスマホを取り出した。ま、まずい……


「待ちなさい。由美、彼と少し話をしたいわ」


「ですが、お嬢様! もしものことがあっては!」


「大丈夫よ。彼が危険な人物であれば、私達を助けてなんかないでしょ。ほら、由美貴女も自己紹介しなさい」


「はぁ、何かあったらすぐに救援を呼びますからね……私は世良由美と申します。お嬢様の世話係とマネージャーを兼任しております」


 渋々と言った様子でお姉さん。もとい世良が自己紹介をしてくれた。お世話に、お嬢様呼びってことはもしかしてこのツインテール、城ヶ崎だっけ。金持ちなのでは……


「あぁ、よろしく……じゃあ俺帰っていいか? これから忙しくなりそうなんでな」


「ダメに決まっているでしょ」


 デスヨネー。


「じゃあこっちから質問してもいいか? ブローカーが捕まったってのは分かったけど、なんで俺がそんなに有名になってるんだ?」


「貴方が安村めぐるの兄だからよ」


「さっきもそんな事言ってたな……めぐるの兄ちゃんだからってそんな騒がれることなのか?」


「当たり前でしょ! めぐるさんは今! 冒険者界隈では有名なんだから! S級候補で最近勇者になった朧月かんなのパーティメンバー候補って噂もあるのよ!」


 へぇー.そんな凄いんだアイツ。


「それで、ぷっ……煌めく剣技だっけ? そんな厨二病みたいな二つ名付けられてんのか」


 今度あったらその名前でおちょくってやろう。あれ? こんな事ばかりしてるから嫌われてんのか、俺。


「嘘、本当に知らないの? 兄妹なのに……」


「厨二病ってなんでしゅか?」


「まあ、恥ずかしい時期のことだ。……知らないな。俺、アイツに嫌われてるしあんまダンジョンの話とかされないからな」


 メルルに軽く説明をしてから城ヶ崎の問いに答える。

 口を開けば就職しろと口うるさく話してくるのだ。アイツは俺の母親か。

 

「失礼じゃなければなんでそんなに仲が悪いのか聞いてもいいかしら。やっぱり妹の才能に嫉妬して……」


「え? 違う違う。俺が働いてなかったからだよ、めぐるの奴真面目だからなー」


「えっ……」


「……クズですね」


 思ってなかった答えのせいか、城ヶ崎は目を点にしていて、世良に関してはゴミを見るような目で俺を見下してきた。


「ぷしゅ、ぷしゅ、ぷしゅ! 人間みんながカケルみたいな屑ばっかりなのかと思ったでしゅけど、カケルだけだったんでしゅね!」


 そして、2人の反応を見て嬉しそうに笑うメルル。


 獣と美少女と美女に囲まれて嬉しいはずなのに何故か嬉しくない不思議な気持ちを抱えながら話を進めるのだった。


 

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