再会の兄妹

第13話 ワイバーン襲来

「おーい、メルル飯できたぞ」


「おぉ! 今日のご飯はなんでしゅか?」


「アングリーベアと雑草のミルフィーユ鍋だ」


「……昨日も同じもの食べたでしゅ」


「ばっかお前。鍋なんてものは2日目以降が本番なんだぞ」


 あれから1週間近くの時が経って、俺がダンジョンにやってきてから15日目に突入していた。

 1週間も経つと中々拠点の設備も充実していて、今は簡易トイレ(メルルの魔法で焼却するタイプ)や鍋料理が作れる場所(壁をいい感じに魔法でくり抜いただけ)なんて物まである。


 あれ? メルルいないと俺の生活詰んでない?


「いただきます……うん。昨日より出汁を吸って味がついてるな」


 乾燥させたキノコを出汁に使ったが、中々いい味だ。

 でもいい加減調味料が欲しい。素材の味は十分楽しめた。


「確かに味が濃いでしゅね。……今日はどうするでしゅか?」


 この1週間戦いまくっていたせいで、肉の貯蔵は十分にある。今日くらいは休んでもいいだろう。と思ったのだが、植物。主に食用のものが無くなりかけている。


「はぁ、今日は収集をメインに動こうかなって思ってる」


 ダンジョン生活は思ったよりもしんどい。それでも働くよりかはマシだけだど。


「なんで朝からそんなに疲れた顔してるんでしゅか」


「なんでもない」


 食べ終わった食器を持って外に出る。

 湖で食器を洗って帰る途中に、洞窟の外に飛び出した引きこもり空間で干している肉と毛皮、キノコの様子を見る。


「おっ、この肉はいい感じだな」


 乾燥肉が出来上がってそうだ。

 塩がなかったので正直心配ではあったがいい感じだ。この様子なら今日の昼に弁当として持って行ってもいいだろう。


「メルルー。食い終わったか?」


 机の上で寛いでいるメルルに声をかける。

 メルル専用の皿を見ると綺麗に平らげていた。しかも魔法を使って食器を綺麗にし終わっている。

 やっぱり魔法って便利だよなぁ……


「行くでしゅか?」


「おう」


 植物収集用のツタで作ったバッグを肩に下げて、ロンギヌスを手に取る。乾燥肉に関してはポケットにすでに入れてある。

 

 準備は万端だ。


 そんな俺をみてメルルが肩に飛び乗ってきた。


「……カケル、止まるでしゅ」


「どうした?」


 引きこもり空間を出るとメルルが珍しく警戒したような声を出した。

 ダンジョンに来て初めてのことに驚きつつもメルルに尋ねる。


「ワイバーンの気配でしゅ」


「ワイバーン? ドラゴンと違うのか?」


「ドラゴン達が使役しているモンスターでしゅ。ドラゴンに忠実で、力はドラゴンに及ばないでしゅがこの層にいるモンスターでは相手にならないでしゅ」


 おいおいマジか。

 俺はそのまま後ろ歩きで引きこもり空間へと戻る。


「何してるんでしゅか?」


「何って文字通り引きこもってるんだが!? そんなヤバい奴がいるのに外に出るバカがどこにいるんだよ!」


 危なかった。メルルがいなかったらうっかり出会ってゲームオーバーの可能性もあったって事か。


「無駄だと思いましゅよ。ワイバーンはドラゴンの命令で来ているでしゅ。ミー達を見つけるまで帰らないと思いましゅよ」


「ま、まじで?」


「マジでしゅ」


「何のためにだよ……」


「多分ミーと契約したカケルの力を見るためでしゅよ。ワイバーンに殺されるならそれまでだと思ってるんじゃないでしゅか?」


「お前のせいかよぉ!!」


「や、やめるでしゅ! 目が回るでしゅ!」


 メルルの体を振る。

 メルルと契約してしまったばかりにドラゴンなんてヤバい連中に目をつけられて……って、ちょっと待て。


「モンスターであるドラゴンがモンスターのワイバーンを使役しているのか?」


 モンスターにも社会という奴があるのだろうか?


「それは違うでしゅ。ミー達の世界ではドラゴンは人類という扱いでしゅ」


「ドラゴンが人類……」


 何てパワーワードだ。


「他にもヴァンパイアやエルフなんかは人類という括りになってるでしゅよ」


 ……こいつは何を言ってるんだ? これ以上聞いていたら頭がパンクしそうだ。


「ふぅ……とりあえずそれは置いとくとして問題はワイバーンだよな。メルルはワイバーンを倒せるのか?」


「ワイバーン如きに負けるわけがないでしゅよ!」


「そうか! なら……」


「ミーが大人になればでしゅけど」


「はぁ!?」


 こいつの変に負けず嫌いな所何なの!? つまり今は勝てないってことじゃんか!


「でも大丈夫でしゅ! カケルと力を合わせたら負けるはずないでしゅ!」


 俺への信頼高すぎません? 1週間前まで俺の戦闘見てぷしゅぷしゅ、笑ってたよね?


「はぁ……ワイバーンが諦める可能性は?」


「ないでしゅね。向こうもこの結界のお陰で正確な位置を測りかねているみたいでしゅけど、この層にいるっていうのはバレていると思うでしゅ」


 あっぶねぇ!? 〈引きこもり〉がなかったらいきなり襲われていた可能性があったってことだろ!?

 流石俺! ナイス俺!


 なんて軽い現実逃避をしてみたが、どうするかな。ここで戦うか? 引きこもり空間なら向こうのダメージがこっちに通ることはない。

 だけど逃げられたら確実に厄介なことになる。


 ……仕方ない。こっちからうってでるしかないか。


「……メルル、ワイバーンの弱点は?」


「背中はドラゴンと同じで固い鱗に守られてましゅけど、お腹側は比較的柔らかいはず、でしゅ!」


 はずって怖いなぁ。もっと正確な情報が欲しいけど、ネットで調べてもゲーム出てくるワイバーンの攻略情報なんかしか出てこない。


「その顔、やる気でしゅね!」


「何で嬉しそうなんだよ……」


 何故か嬉しそうな顔のメルルに若干引いてしまう。こいつ俺のこと戦わせたすぎだろ。


 バッグを置いて少しでも身軽にする。


「……ワイバーンの位置分かるか?」


「任せろでしゅ!」


 メルルは胸毛を突き出し前足で胸を叩いた。


「謎にやる気十分で助かるよ……じゃあ一狩り行くか」


 自分の頬を叩いて気合を入れてから引きこもり空間の外へと歩き出すだすのだった。



「カケル! ワイバーンと誰かが戦ってるでしゅ!」


「なに!?」


 しばらく歩いているとメルルが突然そんなことを言い始めた。うまくいけば戦っている冒険者がワイバーンを倒してくれるかもしれない。


「どっちだ」


「あっちでしゅ」


 メルルの耳は東の方角を指した。俺は気をつけながらゆっくりと進んでいくのだった。


「はぁ!!」


「グァァァ!!」


 メルルの案内に従って進んでいると高級そうな防具を身に纏った金髪ツインテールの美少女が鉄槌を使って緑色の翼竜と戦っていた。

 そして何故かその近くにお団子頭のメガネをかけた革装備の美女がその様子をカメラで撮っている。


 俺は咄嗟に茂みに体を隠す。


「……どういう状況だ?」


 緑色の翼竜はワイバーンだろう。ツインテールが戦っているのも分かる。でも何でその近くで美女がカメラを構えてるんだ?

 

 ……ダンジョン配信者か。今やダンジョン配信者も数が多い。有名どころは何となく把握しているが、全員を把握しているわけではない。おそらく彼女も配信者のうちの1人なのだろう。


「どうするでしゅか?」


 2人の戦闘を見て、パワーは互角だと思うがそれ以外ではワイバーンが一歩上をいっている。それに両者の間で絶対的な差がある。


「くっ!?」


「ガァァァァ!!」


「お嬢様!!」


 それは空を飛べる者と飛べないものという者ということだ。

 そのせいで、ワイバーンには殆どダメージがないのにツインテールだけダメージが蓄積している。

 

「早く助けないとあの人間死ぬでしゅよ!」


「待て、行くなら確実に倒せる時だ」


 正直いってツインテールも俺よりも圧倒的に強い。なのにワイバーンの方が強いってことは、正面から戦って勝てるわけがない相手ということだ。


「でも!」


「いいから! メルル、作戦を説明するから合わせてくれ」


 メルルはチラッと戦っている方を見るが、頷いた。

 

 その様子を見てワイバーンを倒す為に作戦をメルルに話すのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る