第12話 戦利品

「はあはあ!」


 間近に迫るアングリーベアの攻撃を避けながら槍を見る。


 槍の利点はリーチだ。しかもこの槍は毒も使える。なら状況を見てアングリーベアに刺すしかない。

 とはいえ、俺とアングリーベアの距離はそこまで離れていない。ちょっとでも距離を稼がないと!


「ガルゥ!」


「うっ!?」


 頭を下げるとアングリーベアの右手が空を切りそのまま横にあった木を薙ぎ直した。


「マジかよ!?」


 なんつー破壊力だ。あれに当たったらマジで洒落にならないぞ。

 だが、おかげで距離ができた。俺はアングリーベアに向けて槍を構える。


「ガァァァァァ!!」


「来るなら来い! しまっ!?」


 走ってきたアングリーベアに月を放つが簡単に避けられた。

 そしてアングリベアーのクマパンチが俺の腹に入った。俺は吹き飛ばされて近くの木まで吹き飛ばされた。


「ぶっ!? おぇぇぇ」


 幸いな事に朝はキノコしか食べてなかった為、消化されていたみたいだが、腹の中の水分を全て撒き散らしてしまった。


「はぁはぁ……生きてるのか?」


 あんな一撃を喰らってまだ生きてるなんて驚きだ。

 空を見るとメルルが見極めるような目でこちらを見ている。前を向くと、アングリベアーが仕留めた獲物を食べるためにゆっくりと近づいてきている。


 うまく思考がまとまらない。でもここで止まっていたら俺は死ぬだけだ。


 近くに転がっている槍を拾う。体が勝手に後ろの木へ伸ばしているような感覚だ。そしてゆっくりと登っていく。


「はぁはぁ、い、生きなきゃ……」


「ガァァァァァ!!!」


 アングリーベアは木の上に逃げる俺の姿を見て木を登ってきたが巨体のせいかゆっくりとしか上れていない。

 メルルは助けるためなのかゆっくりと近づいてきた。


「はっ、両手塞がっちまったな」


 頂点付近に達した時、下を見ると地面から少し離れた所にいるアングリーベアの姿が見えた。

 木から手と足を離す。すると体は重力に従いゆっくりと落ちていく、それは地面に近づくにつれてスピードを増していく。


 アングリーベアの眉間へ向けてディアボロピッグの牙を加工した穂先を構える。


「ガァ!?」


 驚いたアングリーベアが木から手と足をを離すがもう遅い。


「うぉぉぉぉ!!!!」


「ガァァァァァ!?!?」


 そうして槍はアングリベアーの眉間を貫いた。


「うっ!?」


 そしてすぐに地面に落ちた衝撃が俺を襲うがアングリーベアが下にいたおかげか衝撃は大した事なかった。

 アングリベアーは動かない。眉間には俺の槍が突き刺さっている。おそらく即死だろう。

 体をそのまま横に転がすとアングリーベアの腹の上から落ちた。そしてそれと同時に空が見えた。


「ふぅ……なんとか勝てた……」


 空を見て初めて勝ったという実感が湧いてきた。

 本当に疲れた。もうできる事なら戦いなんてしたくない。

 なんともいえない達成感に身を包まれながらぼーっと太陽を見ていると同じ位置で止まっていたメルルが凄い勢いで近寄ってきた。


「しゅ、しゅごいでしゅ!」


 メルルは興奮していたのか全ての毛が逆立っていた。


「興奮しすぎて、語尾以外もしゅ、しゅ言ってんぞ」


「てっきり逃げたと思ったにあれは作戦だったんでしゅね! ミーからすればあんなモンスター屁でもないでしゅけどまさかカケルが逆転すると思わなかったでしゅ!」


 なんで煽りが入ってるんですかね? 素直に褒めてくれたらいいだろ……


「はぁ、まあそれはそれでメルルっぽいか。つーか助けにこいよ。マジで死にかけたんだぞ?」


 本当に最初と話が違うじゃないか。助けてくれるって信じてたのに……


「助けようと思ってたんでしゅよ? そしたらカケルが木から手を離して……ミーはびっくりしたんでしゅ!」


「いや、俺が吹き飛ばされた時に助けろよ……」


 その前にもっと助けるポイントもあっただろうに。はぁ、まあ生きてるしいいか。


「……そういえばなんで俺生きてるんだ? あんな一撃受けたのに」


 安心するとふと頭の中に疑問が出てきた。


「ふふん。それはミーと契約したからでしゅ! つまりはミーのおかげでしゅね! 感謝するでしゅ!」


 微妙に答えて欲しいこととズレてるんだよなぁ。


「メルルと契約したら強くなれるのか?」


「強くなれるというよりもその人の潜在能力が解放されるでしゅ。思い出して欲しいでしゅ。カケルはあのモンスターから走って逃げてたでしゅよね?」


「え? あぁ……おう。あっ……」


 確かに今考えるとおかしい。相手は熊よりも早かったはずだ。それを走って逃げるなんて普通のことじゃない。


「気づいたようでしゅね。元のカケルがヨワヨワのせいでそこまで強くなった気はしないと思いましゅが、カケルが強くなれば強くなるほどその恩恵を感じることができるでしゅ」


「ほへー」


「なんでしゅか、その馬鹿っぽい返事は!?」


「ちょっと前まで死にかけてたんだ。こうなるのも仕方ないだろ?」


「慣れてもらわないと困るでしゅ! さあ、キビキビ動いて次のモンスターを探すでしゅ!」


 こいつまだ俺を戦わせるつもりかよ!?


「俺はバーサーカーじゃないんだぞ!? それにアングリーベアの後処理もしたいし無理だ」


「むむむ……」


 まだ引き下がらないのか。仕方ない奥の手を使うか。


「あーあ、せっかくアングリーベアの毛皮を使ってベッドを作ろうと思ったのになぁ」


「!?」


 その言葉を聞いた瞬間メルルの動きがピタリと止まった。


「し、仕方ないでしゅね。今日の狩りはここまででしゅ」


「うしっ、じゃあ帰るか」


「分かったでしゅ」


 俺とメルルは戦利品を引っ提げて自分たちの拠点へと帰るのだった。

 



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