第11話 工作をしよう!
「よし、じゃあ今から集めたもので色々作っていくぞ」
「おー!」
あれから欲しかった素材を集め終わった俺達は拠点に戻ってきていた。時計を見ると15時半だった。本当はもう少し帰ってきたかったが仕方ないだろう。
「まずは椅子と机だな。メルル、あの木をこんな感じに切ってくれ」
俺はスマホの画面をメルルに見せる。
そこには板材の写真がある。椅子を作ったことはないけど、今はネットを見れば作り方まで丁寧に書いてくれている時代だ。完璧、とまではいかなくてもそこまでの失敗はしないだろう。
「……こんな感じでしゅか?」
「そうそう。完璧だ。じゃあ後はこれとこれとこんな感じに木を切っといてくれ」
「カケルはミーのことをなんだと思ってるんでしゅか」
「えっ、そりゃ……便利なじゃなくて、可愛いペットだぞ」
「今便利って言おうとしたでしゅか! しかもミーはカケルのペットじゃないでしゅ!」
「ははは、悪い悪い。まあでもこれはメルルにしかお願いできないんだよ。頼むよ」
「ふ、ふん! 仕方ないでしゅね」
こいつチョレーな。
っていかんいかん。俺も俺の作業をしないとな。
まず板材を椅子の足の部分にくっつける作業が必要なのだが、ここにはドリルもなければネジもない。
だが、諦めるわけにもいかない。そんな時に使えるのがこれ! フォレストスパイダーの死体ですね! お腹の部分を思いっきり押すと蜘蛛の糸が出てきます! この糸を足の部分と板の間に入れると……あら、簡単! あっという間に椅子の足が完成するんですね!
「はぁ……このテンションでやってもしんどいな」
正直蜘蛛の死体とか気持ち悪い。でもフォレストスパイダーの糸は特別頑丈なのだ。道具がない環境ではこれを使うしかないだろう。
仕方ない。心を無にして作業しよう。
「うしっ! 完璧とはいかないけどちょっとは文明人の生活に追いついてきたんじゃねぇか!?」
完成した椅子の上に座り机を叩いてみるが、壊れない。かなり時間がかかったが今思い返してみれば充実感のある作業だった。
ダンジョンお手製机セットってことで売りに出しても恥ずかしくはない出来だ。
「おっ、どうしたメルル。お前もこの家具の出来に驚いてんのか?」
メルルが机に上がってきた。顔を上げたと思ったら何故か険しい顔をしていた。
「……武器は?」
「うっ、忘れてるわけないだろ。ハハハ、うん。忘れてなんかナイヨ」
「…………」
疑いの眼差しはかなり鋭い。
「今から作業しようかと思ったんだけど外が暗くなってきたなぁ。ご飯も作らないといけないし、また明日に……」
「武器が作れるまで寝かせないでしゅ」
うっ、お前に今夜は寝かせないなんて言われても嬉しくねぇよ。
「いやでもあかりがないとなぁ……」
「ミーがずっと照らしていてあげるでしゅ」
そういうと、メルルの周りに光の玉がフヨフヨと浮かび始めた。
「はぁ、分かったよ。ご飯作りながら武器も作りますぅ」
くそ、本当はもう少し楽したかったんだけどなぁ。
俺は焚き火の近くに行き、枝を追加する。
そして焚き火の上に今日作ったばかりの木のラックを置いてそこに取ってきたキノコ(スマホ調べでは毒なし)を吊るしていく。
今日のメニューは燻製きのこだ。塩がなくても作れるかどうかは不安だが、燻製が作れるようなれば保存食も作れるようになる。やる価値はあるだろう。
「よし、じゃあメルル。ディアボロピッグの牙だけ取ってくれ」
「牙でしゅか?」
「おう」
氷漬けの牙を俺の腕力で外すことはできない。メルルは風の魔法で簡単に牙をとった。
「んじゃこれを鋭く細く削ってくれ。俺は俺でやることあるから」
「こ、これをでしゅか? まあやってみるでしゅ」
今日とってきた素材の中にあるダンジョン製のツタとジャイアントビーの毒針を取り出す。
「これでいいでしゅか?」
「おっ完璧じゃん。んじゃこの棒の両端にちょっと切り込みを入れてくれ」
「こうでしゅか?」
「そうそう!」
「何してるでしゅか?」
後はディアボロピッグの牙とジャイアントビーの毒針を両端に取り付けてフォレストスパイダーの蜘蛛の糸で固定してからツタを巻き付ける。
絶対に外れない結び方(スマホ調べ)で結べば……
「ジャジャーン! 聖槍ロンギヌスの完成だ!」
我ながらなかなかの出来だ。
武器がなければ今ある素材で作る。これがこのダンジョンでの生き方よ! ……まあ、このダンジョンに来て8日目なんだけど。
「おぉ、でしゅが武器の名前はどうにかならないんでしゅか? 明らかに武器とあってないでしゅ」
「あぁ? じゃあ魔槍ゲイボルグとかどうよ!」
「……はぁ、壊滅的でしゅね」
呆れられんのが1番腹立つなぁ!
「偉そうにしやがって……飯ができるまでくすぐりの刑だ!」
「ぶしゅしゅ! やめるでしゅ!!」
こうして8日目の夜が過ぎていくのだった。
後キノコは美味しかったです。ダンジョンに来て初めて美味しいご飯を食べれました。
「ふぅ、1番最初の相手はお前か……」
次の日、食料集めの為にダンジョンを散策しているとアングリーベアと遭遇した。
名前の通り気性の荒い熊なのだが、爪も牙も野生にいる熊の比ではない。一撃でも擦れば致命傷は免れないだろう。
「ガゥゥゥ」
アングリーベアが吠えた。
その遠吠えは威嚇と牽制その両方が入っているようだ。俺にビビってるのか? まあいい。
「メルル、マジで危なくなったら助けてくれるんだよな?」
「当然でしゅ。カケルがここで死ぬのはミーとしても困るでしゅ」
メルルの言葉を聞いて頷く。
「そうか。ならテメェの血でこの聖槍を濡らしてやるゥ!!」
ジャイアントビーの毒針が刺されている方を前に構えて、アングリーベアへ向けて突っ込んだ。
ジャイアントビーの毒針には麻痺性の毒があると書いてあった。それだけではなくなんとこの毒熱を与えると消失するのだ。食べる時には困らないそれが武器のアタッチメントに選んだ理由だった。
「ガゥ!」
アングリーベアは俺が近づくと距離をとった。
この新兵器に対してビビってる? 熊のくせになかなか賢いじゃないか。まあ1番すごいのはこの武器を作った俺だけどな!
「ふむ。これはダメでしゅね」
メルルが急に声を出した。
「え? 何がダメなんだよ。ちゃんと俺は戦おうとしてるだろ?」
「ダメなのはあのモンスターの方でしゅ。少し賢いせいか、ミーとの力の差を分かってるでしゅ。怯えて攻撃に移ろうとしてないでしゅ」
「はぁ? お前にビビるって? ビビってんのはこの武器にだろ?」
メルルの頬をツンツンしながら言ってやるとメルルは呆れたように笑った。
「ぷしゅ、なら試してみるでしゅ」
そういうとメルルの体はゆっくりと空を浮かんでいった。
「えっ!? お前空とべんの!?」
俺の驚きと同時に後ろから何か本能的な危険を感じた。
「ガルゥ!」
自分でも分からないまま横に飛んで避けると俺の位置にアングリーベアいた。
「うそっ!?」
「ガルルルル」
そしてアングリーベアは一歩また一歩と俺へと距離を詰めてくる。
「い、いやん。積極的じゃない?」
何故かオネェっぽい言葉が出てきた。
「ガルゥ!」
それと同時にアングリーベアが飛びついてきた。
「わっひゃ!? これ死ぬ! メルル! 俺死んじゃうよ!」
「ぷしゅしゅ! 間抜けでしゅ! 間抜けな顔でしゅ!」
メルルは文字通り高みの見物をしていた。
「おい! 笑ってんじゃ!? ねぇ! 助けて!? くれよ!」
アングリーベアの攻撃を回避しながら叫ぶ。
「ぷしゅしゅ! カケルならもっと頑張られるはずでしゅよ〜。ガンバレっ、ガンバレっ、でしゅ!」
「このケモガキがぁぁぁ!!」
後ろに迫り来るアングリーベアの脅威をかわしながら全速力で逃げるのだった。
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