第2話 そうだ、ダンジョンに住もう
「だぁーくそ!」
即日 10万 楽
この検索方法で調べても出てくるのはよくわからない広告や、消費者金融。果ては怪しいバイトばかりだ。
知恵袋にも相談したが働いてない貴方が悪いです。働きましょう。と回答が返ってきた。
そんな正論こっちは求めてないだよ! ばーか!
もう1時間は無駄にした。イライラしながらスマホの画面を見ていてると突然スマホに水滴が落ちてきた。
空を見上げると雨が降ってきた。
「ついてねぇ……」
本当についてない。
今日は家は追い出されるし、街では馬鹿にされるし嫌なことばかりだ。
……雨が強くなる前に雨宿りできる所に行くか。
「ふぅ、ちょっと濡れたな……一旦休憩するか」
フードコートに置かれているウォーターサーバーから無料の水を取り適当な席に腰を下ろす。
「はぁ……マジでこれからどうっすかなぁ」
紙コップに口をつけながら天井を見上げる。
改めて自分の状況を考えると救いがない。
やっぱり今からでも就職活動でもするべきか? 住み込みのバイトから始めれば……いやいや、それは最終手段だ。
はぁ、どっかに自給自足ができる場所ねぇかなぁ。金がかからず飯が食えるところがあればいいんだけどなぁ。
そんな事を考えているとピンポンパンポーンとチャイムが鳴った。
『本日はリオンモールへのご来店ありがとうございます。午後15時より食料品売り場にて、ダンジョン産の食料品をタイムセールスで販売します。興味がある方は食料品売り場まで一度足をお運びください。繰り返します……』
……ダンジョン産の食品? そういえばかなりの高級食品だった筈だ。ダンジョンで取れた食材は味が美味しいことで有名だ。
普通のネギが100円そこそこだとするとダンジョン産のネギは800円くらいのはずだ。
それをダンジョンで取って食べたらタダなんじゃ……しかもダンジョン内ではそういう食材が自生しているとも聞く。
馬鹿な考え、自分でもそう思う。だが一度頭に浮かんでしまうとそれが離れることはない。
「ダンジョンで取った素材や食材を売れば、働くことなく生活できるのでは? それを転売すれば楽に大金を稼ぐことができるのでは?」
一度妄想を始めると、成功する妄想しか出てこない。ニートの悪い癖だ。
なまじ社会人経験がないせいで自分が少しやればなんでもできてしまうと思い込んでしまうのだ。
そのせいでイラストレーターや小説家、配信者になろうとして失敗したことを思い出すが、嫌な記憶はすぐに消える。
「そうと決まれば行ってみるか!」
ここから埼玉まで電車で行けばそこまでかからないだろう。6千円もあれば余裕で行けるだろう。
「って訳でやってきたはいいが……」
あれから電車を使ってやってきた。
電車賃で2540円持って行かれたから残金4332円だ。残高的には引き返すことはできない。
だというのに、問題が発生した。
白いモヤの様なもの。おそらくダンジョンに入るためのゲートまでやってきたのだが、その前でスーツを着た人が冒険者カードの確認をしている。
冒険者カードとは車の免許証みたいなもので、ダンジョンに入るために必要な物なのだが、俺は当然持ってない。
つまりそれがないと、ダンジョンに入ることができないのだ。
クソー! 忘れてたー!
ほんと馬鹿だろ俺! 28にもなってなんて馬鹿なことやってるんだ! 事前情報くらい調べとけよ! 計画性がないからお前はニートなんだよ!
ひとしきり自分への悪口を言い終わり、絶望する。
残金があれば帰れない訳ではないが地元に帰ったらその時点で俺の野宿が決定する。
それ以前に食費が持たない。1800円2日で無くなってしまうだろう。
「はぁ……」
「おい兄ちゃん、そんなところで這いつくばって何やってるんだ?」
後ろから声が聞こえたので振り返ると、そこには筋骨隆々のスキンヘッドがいた。
背中には両手斧を背負っていて、防具も地元で見た冒険者とは高級感が違う。
「あっ、えっ……」
いきなり巨漢に声をかけられたことにより、吃ってしまった。
「……おい、兄ちゃんちょっと付き合えや」
こ、これってカツアゲだよな? 逃げないと……
「なっ、いいだろ?」
が、肩に手を乗せられたことにより逃げる道は完全に塞がれた。
「ひゃ、ひゃい……」
安村翔28歳にして初めてのカツアゲに会ってしまった。
「ほら、好きなもの頼め」
そして連れてこられたのは近くにあったカフェだった。
「えっ? じゃあアイスコーヒーで……」
いまいち理解できないまま、俺は促さられるまま注文をし、商品を受け取り席についた。
最近のカツアゲってこんなに親切なの?
「兄ちゃん。見たところダンジョンに一発逆転を夢見たたんだろ?」
俺が困惑していると男が話し始めた。
「え? あっ、はい。そうだけど……」
なんのつもりだ? と訝しみながら男を見ていると男は口を開いた。
「うだつの上がらない人生に嫌気をさして免許もないのに、ダンジョンに潜ろうとする馬鹿な奴らは珍しくもないんだよ」
まずい通報する気か? それとも説教する気か?
「おいおい、そう警戒するな。俺は何もお前をサツに突き出そうって訳じゃない。むしろ逆さ。お前を助けてやるって言いにきたのさ」
急に胡散臭くなったな。
「へー、どうやって?」
「簡単だ。俺がお前を袋に入れてダンジョンの中まで運んでやる。その代わり今持ってる金を全部よこせ」
「袋に入れて?」
「ああ、そうだ。兄ちゃんが入るくらいの袋を俺が背負ってダンジョンに入るんだ。要は密入国みたいなもんだ」
「そんな簡単な方法で?」
怪しすぎるぞ。冒険者カードを確認していた奴に見つかるんじゃないだろうか?
「ああ、バレるかもって思ってるんだったら心配いらないぞ。俺はこのやり方で何人も向こうに送ってるからな。さあ、財布を出せ」
「あ、あぁ……あっ、おい!」
財布を取り出すと男は無造作に財布をひったくった。
「4000円とちょっとしか入ってねえな。だがこの財布ブランドでそれなりの値がつくな。いいぜ。これで請け負ってやる」
男は勝手に話を進めるが、俺にとってもこれはチャンスだ。止める理由はない。
「ああ、ありがとう。アンタ名前は?」
「俺のことは詮索するな。俺とお前はこの瞬間だけの関係だ。いいな?」
男は自分が法律に触れている事を理解しているのか素性を明かすつもりはないらしい。
「分かった」
「じゃあこれを飲み終わったらあっちに送るそれでいいな?」
俺は男の言葉に頷いてコーヒーを飲み始めるのだった。
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