ニートしてたら親に家を追い出されたので、ダンジョンに住もうと思う
コーラ
ニート、家を発つ
第1話 追い出されまして…
「おい、翔」
ある日の平日、普段通りモニターに向かいゲームしていると突然扉が開いた。
父さんが俺の名前を呼ぶが今はそれどころじゃない。
「なに? 今ちょっと忙しいから後にしてー」
だが、今は反応する余裕がない。何故なら今はコンボ中なのだ。
大乱闘するゲームにおいて一瞬の油断もあってはならない。
「ふざけるなぁ!」
そして怒号と共に俺の斜め前にあったゲーム機が剣によって真っ二つに叩き切られた。
もちろんモニターの画面はブラックアウトした。
「な、な、なにすんだよ! てかなんで剣を取り出して……」
背中から嫌な汗が流れる。
剣を向けられたのは人生初めての経験だ。そしてその相手がよりにもよって自分の父親だ。
俺がテンパってしまうのも仕方ないだろう。
「うるさい! お前というやつは碌に働きもせずに遊ぶばかり! ワシが定年を迎えれば働き出すかと思えば、そんなこと気にせずに遊び呆けよって!」
「は、はぁ? そりゃ、俺は働いてないけど剣を向けることはないだろ!?」
俺の年齢は28歳だ。
世間から見れば、いい年した男が働きもせず、親の脛を齧るクズだと思うだろう。
その通りなのだが、俺は普通のニートじゃない。親から文句を言われない為に家事など家のことは俺がしているのだ。いわば専業主婦の息子バージョンだ。
働かない理由? そんなの働きたくないからに決まっている。
「えぇい! うるさい! お前と口論するつもりはない! いつものらりくらりと逃げやってからに! 今ここで決めろ! 働くか、この家を出るか!」
こりゃ、かなり頭に血が昇ってるな。
剣を向けられたままじゃ話し合いにもならないし、とりあえず下ろしてもらおう。
「OK、父さん。落ち着こう。決めるからその剣を下ろしてくれ……」
「黙れ! 今決めろ! めぐるは高校生だというのに自立しているのにお前は今のままで恥ずかしくないのか! 母さんも泣いてるんだぞ!」
めぐるというのは俺の妹だ。
かなり歳が離れていて、あいつはいま高校3年生で18歳だ。
10歳差の兄妹だ。そして小さい頃から俺の背中を見て育ってきたせいか俺に似ずすごく真面目だ。
「ははっ、落ち着けって。よくいうだろ人は人、自分は自分って。だから」
「黙れぇぇぇ! それをお前が言うなぁ!!」
俺の軽口を黙らせるかのように割って入り剣を振り下ろした。
「おわぁ!?」
俺はそれを横に飛び退くことで回避する。しかしモニターは真っ二つになってしまった。
なんだよあの剣、切れ味よすぎだろ……ってそんなこと考えている場合じゃない。ここから逃げないとマジで殺されそうだ。
「ととっ……」
なんとか近くにあった財布とスマホを取り急いで部屋を出る。
「逃げるな! 家を出るつもりなら2度と帰ってくるんじゃいないぞ!」
部屋から父さんの怒号が聞こえてくるが、俺はサンダルを履いて急いで外に逃げるのだった。
「はっ、はっ、はぁはぁ……」
俺は人通りの多い場所まで走り続けた。
全力疾走するのなんて久しぶりだから足が震えている。
「俺が働かないからってあそこまでやるか? フツー」
先程起こった出来事に愚痴を漏らしながら歩く。あの様子だと少しの間……いや暫くは帰れないだろう。
とりあえず財布の中身を見ると6千円と872円が入っていた。
「俺の財布にしては入ってる方だけど……」
6千円くらいじゃネカフェに2日泊まれば無くなってしまう。それに食費のことも考えるとそれは現実的じゃない。
「はぁ、クッソ。どうすっかなぁ。めぐるのところに転がり込むか? いや、アイツは俺のこと嫌ってるし父さんより酷い目にあわされそうだ……」
一人暮らしをしている妹を思い出したが俺はすぐに首を横に振った。
「ん? なんだ?」
そんな事を考えながら歩いているとやけに人に見られている気がした。
ちょうど近くにショーケースがあったので、ガラスに近寄るとそこにいたのは髪はボサボサ、髭は伸ばしっぱなしでグレーのスウェットを着た俺の姿があった。
これじゃあまるで浮浪者だ。いや、まるでと言うかたった今しがた浮浪者になってしまったのだが、このままじゃまずいよな……
とはいえやはり先立つものがない俺にはどうしようもない。
「うわ、あのおっさん見ろよ。ああはなりたくないよな」
「本当だよねー」
そんな事を考えていると後ろから話し声が聞こえた。
男女、おそらくカップルのうち男は背中に大剣を女はホルスターに拳銃をしまっていた。
服も普通の服ではなく、防具と呼べるような物を着ている。
おそらく冒険者だろう。
10年前、突如世界中に現れたダンジョン。
それに合わせて新しく生まれた職業が冒険者だ。日本にもダンジョンは一つだけある。
そのダンジョンは埼玉にある。おそらくあのカップルはそこに向かっているのだろう。
10年前まで埼玉は何もないとか言われていたが今では日本で唯一ダンジョンがある県としてとても人気だ。
家に剣が置いてあったのはダンジョンができた影響だ。ダンジョンができてから銃刀法はなくなり、その辺は緩くなった。だから家に妹が昔使っていたであろう剣があったのだろう。
「うわっ、こっち見てるよ。もしかして今の聞こえちゃった?」
「別に聞こえたって問題ねーって! 何かできるわけじゃないからな!」
俺を挑発するように男が声を上げた。
そしてその言葉を皮切りに周りにいた人達もおそらく俺へ向けて陰口を言い始めた。
俺は居た堪れない気持ちになり、その場から逃げるように走り出した。
そして横断歩道に差し掛かった時に右を見るとトラックがクラクションを鳴らしながら走ってきた。
「うぉ!? 危ねぇ……あと少しで異世界転生するところだったぁ」
俺はギリギリの所で止まり轢かれずに済んだ。
トラックに轢かれるなんて異世界転生の鉄板だから本当に危なかった。
いや現状なら異世界転生した方がましか? って何を考えているんだ俺は……そんなふざけている事を考えている場合ではない。
一度深呼吸をして落ち着く。
「人の目は気にしない方針でいこう」
残金6872円じゃできることなんて限られている。それを外見のケアに回すなんて無駄遣いはできない。ならば諦めるしかないだろう。
今度はちゃんと信号が青になるのを確認してから歩き始める。
「パチンコで増やす……いやリスクが高すぎるな……なら野宿か? それはちょっと嫌だな……」
別に我慢すれば出来ないことはない。でもそれは流石に人として何かを失うような気が……
「あっ……」
ここまで来て働くと言う選択肢が全く入ってこない辺り自分は生粋のノラだなと思うと同時に少し笑ってしまった。
「とりあえず、どうにかして生きる術を探さないと……情報収集でもするか……」
スマホの充電をあまり使いたくないが、今はそんな事を言っている場合でもない。
こういう時どうしたらいいか知恵袋を見れば解決するだろうと思い検索を始めるのだった。
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