第3話 知らない人にはついて行くな!

「それでは冒険者カードの提示をお願いします」


「おらよ」


「……はい、問題ありませんね。そちらの袋は?」


「今回はモンスターの生態調査依頼があるんでな。その道具なんかが入ってるんだ」


「なるほど……お手数をおかけしました」


「構わないさ。じゃあ行っていいか?」


「はい。お気をつけて」


 あれから男に背負われておそらくゲートの前までやってきたのだろう。職員? と先ほどの男の話し声が聞こえてくる。


 どうやら男の言っていた様にチェックはかなり雑な様だ。1日にかなりの人間がダンジョンに入るから、円滑に進める為なのだろう。


 体が揺れ始めた。男が歩き始めたのだろう。


『職業ニートになりました。それともない基本スキルである〈引きこもり〉、〈堕落した環境〉を手に入れました』


 すると少しして、頭に直接声が響いてきた。


 びっくりして体が跳ねてしまう。


「その様子だと職業開花したのか。良かったな。冒険者適性あるぜお前。……ダンジョンに入ったとはいえここは人が多い。もう少し静かにしてろ」


 男が小さな声でそう呟いた。


 職業とはダンジョンに入った時に開花する可能性がある物だ。

 全員が全員開花する訳ではないらしいが、ほとんどの人は目覚めるらしい。

 でも職業ニートなんて聞いた事ないぞ。まさかレア職業?


 レア職業、職業の中でも珍しいとされる職業の呼び名だ。例えば勇者なんかがこれに当てはまる。

 冒険者は多いのに勇者は立ったの5人しかいないのだ。そしてレア職業の多くは強大な力を手に入れることができるとも聞く。


 確か職業やスキルの説明は念じればわかるんだったっけ?


『職業ニートは志が著しく低い者に与えられる職業です。基礎戦闘能力の上昇はありません。また魔法適性もありません』


 外れじゃねぇか! しかも志が低いって馬鹿にしてんのか!?


「おい! 暴れるな!」


「ご、ごめん……」


 男の声に冷静さを取り戻す。


『スキル〈引きこもり〉はダンジョン内でセーフティゾーンを作成することができます。この領域にはモンスターはもちろん敵意を持った存在は侵入することができず、攻撃は無効化されます。現在は直径2メートルの範囲にゾーン作成することができます。レベルアップにより、領域は広がっていきます』


 ……え? 最強スキルじゃね? ゲームでいうところの謎のセーブ空間を作れるってことだろ? どれだけ敵に囲まれてもその空間に入るとなぜか敵はプレイヤーを見失ったり敵の攻撃が無効化されるアレだろ?


『スキル〈堕落した環境〉は引きこもり範囲内での電子機器が充電可能になります。またインターネット回線も接続可能です』


 えっ?最高じゃん。引きこもり空間の中だとスマホの充電は勝手にされて電波も届くの?

 ダンジョンの中で電波を使うには結構値が張る機械を買わないといけないって聞いたんだけど、それ買わなくても使えるの?


 ニートって超当たり職業じゃないか!


 そんな事を考えているとお尻に衝撃が走った。


「いてっ!?」


 男が袋を落としたのだ。

 袋が自然と開いた。辺りを見渡すと森の中だった。空を見上げると雲が浮いていて二つの太陽が浮かんでいた。


「っ……」


 ダンジョン配信でも見たことあったが、ダンジョンの中は本当に別の空間の様だ。

 ゲームの様にタイルに囲まれた空間ではなく、まるで外にいる様だ。


「俺とはここまでだ。あとはどこに行くなり好きにしろ」


「あ、あぁ……武器は?」


 そういえば武器がない。


「何言ってんだ? お前、武器なんて持ってないんだろ?」


「いや、アンタが準備してくれているんじゃ!」


「そんな甘い話がある訳ないだろ! テメェとの契約はここまで送り届けると約束だけだ。何もかも俺が準備してやる訳ないだろ。俺はテメェの親じゃないだよ」


「うっ……」


 親切だった男に凄まれて、何も言い返せない。


「そら、さっさとどっか行け。俺はテメェが動いた後に動くからよ」


 後をつけられないようにか……ずいぶん用心深いな。


「分かったよ」


 俺は右も左も分からない中でとりあえず男から離れるように歩き始めた。

 


「にしてもこりゃ、ダンジョンっていうより異世界だな……」


 人の姿はないが、地球とは違う。

 見たことないような草や木が生えている。それに加えて太陽が2つもある。それぞれ地球の太陽より一回り大きいものと小さな物だ。


 だが、気温はそこまで高くない。太陽が二つもあるのにおかしいと思うが、考えても無駄だと思う。

 だってダンジョンを昔から調査している人達がいるが何一つわかってないのだ。


「って今はそんな事を考えるより、食べる物と水を探さないとな」


 果物でも見つけられたら水は必要ないかもしもれないが、両方探しておいて損はないだろう。

 年甲斐もなく少年の頃のようなワクワクした気持ちを思い出しながら森を進んでいくのだった。


「ん?」


 しばらく歩くとちょうどバットくらい木の棒が地面に刺さっていた。


「お、おぉ……こ、これはアレか!」


 伝説の勇者にしか抜けない聖剣と言ったところか。

 小学生の頃は手頃なサイズの枝を魔剣とか言ってたけなぁ、懐かしいなぁ。

 

 こんなシチュエーション、男としては見逃せないよな。


「っ! ……ふん! とったどー!!」


 棒の前に立って力を入れる。すると棒は簡単に抜けた。棒を天に掲げて喜んでいるとにょきっと新しい棒が生えてきた。


「は?」


 一瞬ぽかんとしてしまったが、もう一度棒を引き抜く。今度は感動もクソもあったもんじゃない、無感情だ。

 すると棒は俺を馬鹿にするかのようにまた生えた。


「…………」


 白けたわ。なんだこれ。ダンジョンにはこんな意味のわからないものまであるのか。

 

 あっ、分からないなら調べてみるか。


 スマホを取り出してみるがやはり圏外だった。


「スキル〈引きこもり〉発動!! ……なんかダサいなこれ」


 だが、引きこもり空間は確かに発動したようで俺を中心に緑色の空間が一瞬だが見えた。

 そして圏外から電波マークが4本立って充電が始まった。


「めっちゃ便利なスキルなんだけどなぁ。引きこもりと堕落した環境って……」


 もうちょっと格好いいスキル名でもいいじゃん。


 まあいいか。ダンジョン 棒 生える で検索だ。


「なになに、ダンジョンで偶に見かける無限に木の棒の名称は、選ばれたものじゃなくても抜けるただの棒。です。武器としての攻撃力はナイフの方が高いですがリーチはあります。武器が壊れた冒険者さんは武器の代わりに是非お使いください!

 だとぉ!? 本当にただの棒なのかよ! てか名前考えたやつ何考えてんだ!?」


「ま、まあ? 武器として使えるならいい、のか? 素手よりかはマシか。一応あと2本くらい抜いとくか……」


 スポッスポッ、と2回ほど棒を抜いてから前に進むために歩き始めた。


「……抜きすぎたな。やっぱり4本もあると動きずらいな」


 4本とも小脇に抱えて歩いているが邪魔だ。

 耐久力が低そうだから何本か持っていた方がいいと思ったが、持ち運びで苦労する。

 

 ゲームなんかじゃ謎の空間に武器が収納されるのに、現実はままらないものだ。


「……ポイ捨てするか」


 ダンジョンだし日本の方なんて適用されないだろう。周りに誰もいない事を確認してから棒を3本ほど捨てた。


「グルルルルル」


 すると茂みの間からオオカミが現れた。

 いや、厳密にはオオカミではないと思う。オオカミより発達した爪に牙を持っていて赤色の毛で全身を覆われている。


「あは、ははは……もしかしてポイ捨てしたから怒っちゃった?」


 オオカミは妙に殺気立ってる。


「ガルルルル」


「拾うから、な? その怖い牙をしまってくれると嬉しいかなー……なんて」


「ガルゥ!」


 俺が逃げようと足を動かした瞬間、オオカミは俺向けて飛びかかってきたのだった。


 

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