第26話

 結局図書館に入った俺と明日花は二時間ほど勉強をすることとなった。


 図書館には本がいっぱいある。まるで小学生並みの感想だが、約10年ぶりに図書館にやってきた俺はそのことを改めて知ることとなった。


 赤本、青本、黒本のような過去問集から各教科の参考書にいたるまでこの図書館には勉強に必要な書物が全て揃っていた。


 結果、俺は明日花が持ってきていたノートとペンを借りるだけで全ての勉強ができてしまうのだから恐ろしい。


 バイキングに皿と箸だけを持参したような気分だ。


 いや、この例えは自分でもよくわからんけど……。


 ま、まあとにもかくにもほぼ手ぶらの俺でもなんの問題もなく勉強ができたということが伝わればそれでいい。


 が、図書館には色々と制約もある。当然ながら自習室で私語は厳禁である。だから、わからないところを明日花に聞こうにも必要最低限以上の会話はできなかった。


 だから明日花が問題集を選んで解かせる。それを解いた明日花が採点をしてコメント付きで返してくれるというのを何回かくり返す。


 ノートに解答を書いた俺が明日花の肩をトントンと叩いた。


 それを受け取った明日花が採点をしてノートを俺に返してくる。


『おめでとう。全問不正解だぞ』


 というメモを添えて……。


 あぁ~死にたい……。自分のあまりの出来の悪さに泣きそうな顔をすると明日花は慌てた様子で俺の肩に手を置いて『最初は誰でもそういうものだ』という顔をする。


『本当にお前と同じ大学に入れるのか?』


 という顔を返すと明日花は。


『大丈夫だ。まだ一年以上時間はあるしゆっくりと基礎から学び直そう』


 という顔をした。


 いや、なんで俺たち当たり前のように表情だけで会話ができてるんだよ……。


 エスパーも真っ青になるようなテレパシーを発揮しながらも、俺たちはその後も勉強を続けた。


 そして気がつくと正午を伝えるチャイムが図書館内に響き渡り、周りで勉強していた人たちは私物で場所取りをしつつも各々自習室を出て行く。


 どうやら昼飯を食いに行くようだ。


『明日花、そろそろ腹が減ったんだけど……』

『じゃあ私たちもお昼にしようか』

『だけど館内は飲食禁止だろ? どこで食うんだ?』

『安心しろ。屋上に広場があってそこで飲食ができる』


 ということらしいので、俺たちもまた私物で場所を確保しながらも屋上にある庭園へと向かうこととなった。


 明日花の表情が言っていたとおり屋上には広場があり、一面に芝が植えられている。そこでは自習室で勉強をしていた人たちがベンチに座って弁当を食べたり、芝生に寝転がって休憩をしたりしていた。


『あそこの芝生の上で食べよう』

「いや、自習室じゃないんだから声を出しても大丈夫だろ」

「え? あ、あぁ……それもそうか……」


 俺と明日花は芝生の上に腰を下ろすと、二人してそのまま仰向けになり凝り固まった体を伸ばす。


「祐太郎……お日様が気持ちいいぞ」

「そうだな。やっぱり人間は日光を浴びてなんぼだ」

「あぁ~生き返る~。芝生も気持ちいい。やっぱり自然は最高だ」

「そうだな~」


 と、風呂に浸かったおっさんみたいなことを言う明日花だが、背中に感じる少しだけチクチクした芝生の感触も悪くない。


 顔を横に向けると『人工芝公園』という看板が目に入ったが見てないことにした。


 よし、飯を食うか。


 上体を起こすと明日花もまた息上がり「自然の恵み」とニコニコ顔で人工芝に手のひらを当てていた。


 科学技術の凄さに脱帽しつつ、明日花に真実を告げることを躊躇していると、彼女は風呂敷を解いて中から重箱を取りだして並べていく。


「おぉ、おおおおおおおおっ!!」


 す、凄い……。


 重箱に敷き詰められた炊き込みご飯とおかずを眺めつつ、よだれが垂れそうになるのを堪えていると明日花が「ああっ‼︎」と声を漏らした。


「どうした?」

「は、箸が1膳しかない……はわわっ……どうしよう……」

「え? じゃあ食えないじゃん……」

「どうしようどうしよう……」


 と、困惑する明日花。確かに困った事態である。が、そこまで深刻な問題ではない。


「確か一回にコンビニがあったよな。そこで適当な物を買ってお箸をもらってくるよ」

「そ、それだと昼休みが終わってしまう……」

「いや、図書館に昼休みもくそもねえだろ……」

「そ、そうだ。苦肉の策ではあるがこうしよう……」


 そう言って明日花は重箱と箸を手に取ると、炊き込みご飯を箸で掴んで俺の口の方へと運んでくる。


「祐太郎。あ~んだ」

「いや、あ~んだじゃなくて……箸ぐらい買いに行けばいいだろ?」

「それはその……箸をもらうためだけにコンビニで金を使わせるのは祐太郎に悪い」

「別に悪くないよ。お弁当を作って貰ってるんだし、それぐらいなんともない」

「だ、だけどその……コンビニに行ったらその分勉強する時間が少なくなるぞ……」

「いや、コンビニに行くぐらい……ふがっ!!」

「はわわっ><」


 と、そこで明日花は話している俺の口に強引に炊き込みご飯をぶち込んで来やがった。


「う、美味いか?」

「…………美味い……」


 ということで会話は中断され、俺は強制的に明日花と箸を共有しながら昼食を取ることとなった。


 いや、箸ぐらい買いに行けばいいだろ……。

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