第25話

 俺が完全に忘れてしまっていたことから始まった明日花の誕生日だったが、紆余曲折ありながらもなんとか彼女をお祝いすることができた。


 俺が明日花に参考書と問題集を買い、なぜか俺がそれを解くという謎すぎるプレゼントだがなんだかんだで彼女は喜んでくれたのでまあ良しとする。


 しかし本当に明日花と同じ大学になんて入学できるのだろうか……。


 同じ高校を通ったとはいえ学内で俺と明日花とでは天と地ほどの差もあるし、いくら俺が頑張っても彼女に追いつける気が全くしない。


 けど、彼女に参考書を買ってみて、俺は初めて大学について少し考えてみた。


 俺と明日花は幼馴染みである。できることなら大学でも今まで通り明日花と仲良くやっていきたいというのが俺の素直な考えである。


 これを機に少しは勉強を頑張ってみよう。明日花も勉強を教えてくれるらしいし……。


 なにはともあれ満足げな明日花の顔を見れたから埋め合わせができたと信じたい。


 ということで週末。


 特に予定もなく土日は明日花とゲームでもしようという腹づもりだった俺だった、金曜の夜、眠る直前に明日花から妙なメッセージをもらった。


『祐太郎、明日は私と楽しいことをいっぱいしようっ!!』


 なんだよその漠然としすぎたメッセージは……。


 あとそのメッセージを異性相手に送るのは妙な勘違いをされかねないから止めた方がいいぞ……まあ勘違いはしないけど……。


 なんだかよくわからないがとにかく予定を開けておいて欲しいということらしい。


 とりあえず明日の朝に駅前集合という情報だけもらって、俺はそのままベッドに入った。


 そして翌朝。


「お~いっ!! ゆーたろーっ!! こっちだこっちっ!!」


 集合場所の駅前へとやってきた俺は改札の近くで大きく手を振る明日花の姿を見つけた。


 いや、見えてるから……。そんなに大声で名前を呼ばれるのは恥ずかしいから止めてくれ……。


 なんて思いつつも彼女の元へと歩み寄る。


 今日の彼女の出で立ちは白いブラウスにブラウンのワンピースというスタイルだった。そんな彼女を見て友理奈さんの例のコーディネートがまだ続いていたことを思い出す。


「おはよう明日花」

「おはようだ」

「で、駅前に来たはいいが……どこに行くつもりだ?」


 なんて尋ねると彼女はなにやら、にししと少しいじわるな笑みを浮かべる。


「とっても楽しい場所だ」

「いや、その楽しい場所がどこかを聞いてるんだけど」

「楽しい場所は楽しい場所だ」


 と、俺の質問をはぐらかす明日花。とりあえずついていくしかないようだ。


 俺は明日花の後を追うように改札を抜けると、そのまま電車に乗り込み数駅先にある繁華街のある駅に降り立った。


 それでも彼女は相変わらずにししと笑うだけで何も答えない。が、駅から10分ほどあるいたところでようやく足を止めて目の前の建物を指さす。


「は? ここって……」

「図書館だ」

「いや、なんで……」

「祐太郎。今日は一緒に勉強をしよう」


 なるほど、明日花は俺の勉強嫌いをよく知っているようだ。


 普通に勉強に誘ったら断られる可能性を考慮して、わざわざ帰るのが面倒な遠くの駅まで来たところで種明かしをするという計画だったようだ。


 まんまと騙された……。


「勉強嫌いなんだけど……」

「どうしてだ? 二人で一緒の大学に行こうって約束したじゃないか」

「約束をしたからって勉強が好きになるわけではない……」


 素直な感想を述べると明日花は口を曲げる。が、すぐに笑顔に戻ると持っていたバッグからなにやら風呂敷に包まれたなにかを取り出した。


「じゃじゃーん」

「じゃじゃーんじゃなくて……なんだよそれ……」

「弁当だっ!! 二人分あるぞ。いっぱい勉強をしていっぱい食べようぜ」

「ふんっ……勉強嫌いの俺を弁当如きで籠絡させられると思ったら大間違いだぞ」

「海老アボカドサラダ」

「は、はあ?」

「チャウエッセンのウィンナーを塩胡椒で炒めたやつ」

「…………」

「炊き込みご飯」

「おいおい……俺の好きな物欲張りセットじゃねえか……」

「お前と何年一緒にいると思ってる」

「わ、わかった……勉強しよう……」


 そうだった……こいつ俺の幼馴染みだった……。


 当然ながら明日花は俺の好物など九九以上にしっかりと暗記してやがる……。


 こんな俺の夢みたいな献立を聞かされたら勉強しないわけにはいかない……。


 乗り気ではなかったが大好物の誘惑に負けて、明日花に図書館へと連行されていくこととなった。


 図書館の入り口へと続く階段を上りながら明日花は「♪勉強~勉強~」とご機嫌そうに即興勉強ソング口ずさんでいる。


「祐太郎っ!! いっぱい勉強して一緒に東大に行こうなっ!!」

「いや、それは俺もお前も無理だ」


 と、冷静にツッコミを入れつつ俺たちは図書館に入った。

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