第27話

 あ~美味い……。さすがは幼馴染みっすわ……。


 明日花の作ってくれたお弁当を頬張りながら俺は悦に浸っていた。


 海老アボカドのサラダも、ウィンナーも炊き込みご飯も全部俺の好みを抑えてやがる。さらにいえばデザートのアメリカンチェリーも俺の好みをしっかりと抑えてやがる。


「どうだった? 美味かったか?」

「最高っす……」

「そうかっ!! それは作ったかいがあったというものだっ!!」


 なんて言いながら明日花は嬉しそうに重箱をお片付けした。あ、ちなみにこのドデカい重箱のうち三分の一ほどは明日花が食った。


 いや、ほんとこの細い体のどこに消えたのか……。


 いつもながら食いしん坊の明日花に感心しながらも俺は人工芝に寝そべる。すると隣の明日花もまた「草の匂いを嗅ぎながらひなたぼっこも悪くないな」と言いながら隣に寝そべった。


 いや……人工芝……。


 が、明日花の夢を壊したくないので黙っておくことにする。


 ま、まあぱっと見は普通の芝生だし気分的には、あくまで気分的には芝生の匂いがしないでもない。


 空は快晴だった。わずかに浮かんでいる雲がゆっくり移動するのをながめていると、なんだか開放的な気持ちになる。


 明日花の言うとおりたまにはひなたぼっこも悪くない。


 あぁ……平和だ……。


 平和を噛みしめながら空を眺めていた俺だったが、お腹が満たされたせいか徐々に瞼が重くなってきた。


 ヤバい……寝ちゃいそう……。


※ ※ ※


 週末、吉田沙月は予約していた本を取りに行くために図書館に来ていた。


 本を受け取った沙月はもう図書館に用事はないのでそのまま帰宅してもよかったのだけれど、思っていた以上に天気が良かった。


 図書館の窓を眺めながらそんなことに気がついた沙月はふと屋上にある広場の存在を思い出す。


 たまには芝生に座って本を読むのも悪くないなと思って屋上に来てみることにした……のだが。


「あっ……」


 屋上に出た瞬間、沙月は見覚えのある男女が芝生の上にいることに気がついた。


 男の方は芝生の上で寝息を立てており、隣に座る女は頬を真っ赤にして「はわはわ……」と声を漏らしながらスマホのカメラを男の顔に向けている。


 クラスメイトの鎌田祐太郎と三宅明日花である。


 どうやら幼馴染みの寝顔を撮影しようと四苦八苦しているようだ。


 なんとも微笑ましい光景である。健気に幼馴染みの写真を撮るクラスメイトにほっこりしつつも沙月は二人の仲を邪魔しまいと踵を返そうとした……のだが。


「あっ……」


 が、その前に気配に気づいたのか明日花がこちらへと顔を向けたので逃げるわけにはいかなくなった。


「三宅さん、偶然だね」


 と笑みを浮かべて手を振ると明日花は「はわわっ……」と顔を赤らめる。


 どうして彼女が顔を赤らめたのか沙月には理解できなかったが、なんだか自分に対して気まずさを持っていることはわかった。


 が、少し考えれば明日花の考えていることが理解できてくる。


 おそらく彼女は祐太郎が自分に好意を持っていたことを知っているはずだ。そんな祐太郎と自分が休日に一緒にいることがバレて気まずいと思っているのだろう。


 幼馴染みなのだから一緒にいたとしても特になにも思わないというのが沙月の素直な感想だが、彼女が気まずく感じる理由も理解できないわけでもない。


 スマホを背中に隠してはわわとパニックを起こす明日花。


「こ、これはなんというかその……違うぞ」

「別になんとも思っていないよ。けど本当に仲良しだよね」


 本当に仲が良い。どこまでも初心なクラスメイトの姿を見て心が洗われるような気持ちになる。


 ここは適当に挨拶を交わしてこの場を立ち去った方がいいのかなと思う沙月だったが、少し明日花と話をしておきたい自分もいる。


 少し迷った沙月だったが、意を決して彼女に話しかけてみる。


「三宅さん、少しだけ二人でお話ししない?」

「は、はわわっ……」

「別に怖がらなくてもいいよ。ほら三宅さんと二人でお話しすることってあんまりないじゃない?」

「た、た、確かに……」

「幸いなことに鎌田くんもぐっすりみたいだし少しお話ししよ?」


 そんな沙月の言葉に明日花は露骨に怯えていた。


――そこまで怖がらなくても……。


 と、思わないでもないがそういうところが明日花の魅力でもあるのだなとも思う。


 少なくとも自分に対する恐怖心を持たれると、これからの学園生活に支障をきたしかねないので、やっぱり二人で話しておくことが必要だ。


 そう感じた沙月が明日花に手招きをすると彼女は怯えながらも立ち上がって沙月の方へと歩み寄ってきた。


「は、話とはなんだ?」

「とりあえずそこのベンチに座ろっか」


 と明日花を祐太郎に声が聞こえない程度に離れたベンチへと誘うのであった。

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