第15話

 なんだこれ……。


 明日花の家に泊まることになり、彼女とともにゲームを楽しんでいた俺だったのだが、なんというか凄いことになっている。


『祐太郎、ちょっと肩貸せよっ!!』


 なんて言いながら俺に寄りかかってくることは全くもって珍しくもないし、とくにそのことを意識したことはない。


 が、今日は少し、いや、かなり違う。


 なにせ今の明日花はとんでもなくエロいベビードールを着用しているのだ。


 いくら幼馴染みとはいえ、いくら慣れていることとはいえ、さすがに同世代の異性がこんなどエロい格好で寄りかかってきて意識をしないほど俺は煩悩を捨てきれていない。


「きょ、今日はちょっと疲れたぞ……」

「そうか。一日ご苦労様だな」

「ゆ、祐太郎こそ文化祭の準備、ご苦労様だな」

「まあ少し疲れたかもな」

「………………」

「………………」


 なんて会話を交わしてみるもののお互いになんとも気まずい。


 人間、着ている服が替わるだけでこんなに心がかき乱されるものなのか……。


 それから俺たちはゲームをするわけでもなく、お互いに黙ったまま時間を過ごした。


 が、さすがにこのまま無言のままでいるのも変なのでしばらくしたところで「そういえば明日花」と彼女に声をかけてみた……のだが。


「………………」


 そんな俺の問いかけに彼女は何も答えない。


 ん? と、彼女の顔を見やると、彼女は瞳を閉じたまま小さな寝息を立てていた。


 あ、あれ……寝てる……。


 本棚に置かれた猫の目覚まし時計へと目を向ける。


 時刻は23時を回っていた。俺にとってはまだまだ夜が更けてきた言えるような時間ではないのだが、どうやら彼女にとってはそうではないようだ。


 そういえばこいつ……超健康優良児だったわ……。


 メッセージアプリで会話をしていても、いつも22時を過ぎた頃には返事がなくなるのが日常の明日花にとって23時は深夜と言っても過言ではなさそうだ。


 俺に体を預けたまま気持ちよさそうに口の端からわずかによだれを光らせる明日花。


 今日はなんだかいつもと違って緊張感を漂わせていた明日花だったが、今の明日花はいつもの明日花である。


 そんな彼女の姿にほんの少し安心した俺は、寄りかかる彼女を手で支えながら立ち上がると、彼女を抱き上げてベッドに運んでやることにする。


 体の軽い彼女はあっさりと持ち上がり、ベッドの上に下ろしてやると口をむにゃむにゃさせながら手の甲でよだれを拭いていた。


 ホントこいつは変わらないな……。


 そんな彼女の顔を見て幼い頃を思い出す。昔はこうやってよくお互いの家に泊まりあったものだ。あのときも今と変わらず先に明日花が寝息を立て始めてベッドに運んでやった記憶がある。


 なんだか全てが懐かしいなぁ……なんて考えながら昔と変わらない明日花の寝顔を眺めていると「祐太郎……」と彼女が俺の名を呼ぶので慌てふためく。


「祐太郎……凄い数の猫が寄ってくるぞ……」

「ん? 猫?」


 と、首を傾げた俺だったが、すぐに彼女の寝言だと気がつく。


「な、なんだ寝言か……」

「今日はにゃんにゃんランドでいっぱい猫と遊ぼうな……」


 なんて相変わらず寝言が達者な明日花をしばらく眺めてから、彼女が用意してくれていた寝袋の中に入るのであった。


※ ※ ※


 結局、やることもないので明日花が眠った直後、俺もまた眠ることにしてそのまま朝を迎えたのだが。


 明日花が先に眠ったにもかかわらず俺が先に目を覚ましたので、あいかわらずどエロい格好で眠っている明日花の肩を揺する。


「おい起きろ。朝だぞ」


 相変わらず明日花の寝相は悪く、掛け布団をベッドの下に落としたままぐーすか眠っている。


 ってかよだれも垂れてるし。


「おい明日花」


 再度体を揺するとそこでようやく明日花は目を覚まして俺を見やった。


「朝だぞ」

「ゆ、祐太郎……おはよう……」


 と俺の顔を見てわずかに笑みを浮かべる明日花だったが、しばらくしたところで自分のどエロい寝間着姿のことを思い出したようで。


「はわわっ……><」


 と、ベッドの下から慌てて布団を掴み取って自分の体に巻き付ける。


「わ、悪い……お見苦しいところを見せた」

「いや、別にそれはいいけど、そろそろ支度しないと遅刻するぞ」

「え?」


 と、そこで明日花は枕元の目覚まし時計を見やって血相を変える。


 アラームのセットを忘れていた俺も悪いのだが、明日花も明日花で俺に寄りかかったまま眠ったので目覚ましのセットをしていなかったようだ。


 あと15分ほどで家を出なければ間に合いそうにない。


 ということで俺は一度明日花の部屋から追い出されると彼女が制服に着替えるのを待ってから、俺もまた制服へと着替えた。


 その間約10分。なんとか家を出る準備を俺たちは部屋を飛び出して一階に下りた……のだが。


「え、えぇ……」


 玄関へと下りた俺たちはそこに広がっていた光景に我が目を疑った。


 そこにはさっきの明日花よろしく玄関で仰向けになって眠る友理奈さんの姿があった。


 どうやら飲み会帰りらしい。彼女はミニスカートを大きくまくり上げたままパンツを俺たちに見せつけている。


「お、おい、祐太郎、見ちゃダメだ」


 と明日花に言われたので俺が顔を背けると、明日花は鞄で彼女のパンツを隠したまま「先に出てろ」と俺に先に家を出るよう指図した。


「お、おう……」


 ということで見てはいけないモノを見ないように玄関で靴を履くと家を出ようとした……のだが。


「あら、明日花ちゃん、今から学校?」


 と友理奈さんの声が聞こえたので思わず振り返る。


 どうやら目を覚ましたららしい友理奈さんがその場で女の子座りをしていた。幸いなことにパンツは見えていない。


「お姉ちゃん、ベッドで寝ないと風邪をひくぞ?」

「ごめん……ついうっかり眠っちゃって……。そんなことよりも昨晩は楽しめた?」

「え? わわっ!! ちょ、ちょっとお姉ちゃんっ!?」


 明日花は慌てた様子で頬を真っ赤にして俺を見やった。


「祐太郎。遅刻するからさきに家を出ててくれ」

「え? いや、でも……」

「いいから早く出ててっ!!」


 と強い口調で言われたのでとりあえず家を出た俺……だったのだが。


「明日花ちゃんっ!! なんで寝ちゃったのっ!!」

「はわわっ……ごめんなさい……眠くてつい」


 みたいな謎の会話から家から聞こえてきて、明日花が姉に怒られていることだけは理解できた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る