第16話
なんとかギリギリセーフだった。
チャイムが鳴る直前になんとかダッシュで教室に滑り込んだ俺と明日花はそれぞれの机に腰を下ろして荒い呼吸をなんとか治めていると、隣の席の吉田がなにやら驚いたように俺を見やった。
「鎌田くんと三宅さんが遅刻ギリギリなんて珍しいね」
まあ確かにいつもはどれだけ遅くても10分前には教室にいるからな。
「お寝坊したの?」
そう尋ねてくる吉田に俺は笑顔で「その通りだ」と答える。
「明日花も俺も目覚ましをかけ忘れていて、目が覚めたら7時半を過ぎていて慌てて明日花をたたき起こして走ってきた」
なんて笑顔で答えると吉田は「え?」と目を見開く。
そこで俺は自らの失言に気がついた。
「え? どっちかの家に泊まってたの?」
なんて言葉に後ろから「はわわっ……><」という声が聞こえてくる。
あ、これ……まずいわ……。
そう思った俺だったが、俺の発言的にも明日花の反応的にも言い間違いでごまかせそうにない。
とりあえず。
「まあ幼馴染みだから時々泊まってゲームをしたりすることがあるんだ。それ以上でも以下でもない」
「そ、そうだぞ……」
と、明日花も応戦してくれるが応戦になっているのかはよくわからん。
まあ高校生にもなって異性の家に泊まるなんて、よっぽどの関係でもない限りありえないことなのは重々承知しているし、吉田が驚くのも無理もない。
なんか慌てて弁明しているせいで必死に誤魔化しているみたいになってしまっているが、本当に俺と明日花は特別なことはなにもしていない。
まあ明日花は非常に不適切な寝間着を着ていたけど。
「そ、そうなんだ……本当に鎌田くんと吉田さんは仲が良いんだね……」
と吉田は一応は納得してくれた。
納得した感は全くないけれど……。
が、とにもかくにも嘘を吐いているわけではないし、これ以上に弁明することもないのであとは吉田が信じてくれることを信じるしかない。
なんだか冷や汗が止まらない中、俺は鞄から教科書を取り出すのであった。
※ ※ ※
それからはいつも通りの学園生活を送ることとなり、放課後がやってきた。
「祐太郎、学校が終わったぞっ!!」
「そうだな」
改めて確認するまでもないことを嬉しそうに俺に確認してくる明日花。
「祐太郎、今日はお姉ちゃんのバイト先に遊びに行かないか?」
「ん? バイト先? 確か友理奈さんのバイト先ってコンカフェじゃなかったっけ?」
なんかそんなことを以前に明日花に聞いたことがある気がする。
「そうだ。お姉ちゃんが、今日は夕食をご馳走してくれると言ってくれた。だからその……もしも祐太郎が暇なら一緒にご飯を食べに行きたいぞ」
そういうことらしい。なんだかよくわからないがそれはありがたいことだ。
ということで俺と明日花は学校を出て、友理奈さんの働くというコンカフェへと向かうことにした。
学校を出て駅の反対側に出ると、そこには歓楽街とホテル街が広がっている。普段なら高校生の俺には全く縁のない場所なので滅多に来ることはない。
「な、なんだかえっちそうなお店がいっぱいあるぞ……」
と、目の前に広がるいかにもいかがわしいお店を眺めながら率直すぎる感想を述べる明日花。
「そ、そうだな……。ってか、本当にこんないかがわしいところに友理奈さんのお店はあるのか?」
「そ、そのはずだぞ……」
なんて言いながら明日花はスマホの角度をいろんな方向に向けながら頭を悩ませている。
どうやら地図を見るのが苦手なようだ。とりあえず彼女からスマホを受け取って俺もまた色んな角度にスマホを向けてみると、友理奈さんの店がすぐ近くにあることがわかった……のだが。
「こ、これ……えっちな店じゃないのかっ!?」
「いや、友理奈さんの店はその上の階だから」
「え? あ、そうか……一瞬びっくりしたぞ」
いや、仮に友理奈さんがそのえっちな店で働いていたとして、そこに俺と明日花を呼んだのだとしたら正気の沙汰じゃねえぞ……。
が、いくら目的地が友理奈さんの店だとはいえ、その途中に『パイパイクリニック』を通過するのはなかなかに勇気がいる。
「い、行くぞ。明日花」
「お、おうっ」
まあ店の前でいつまでも突っ立ってても埒は明かないので、俺と明日花は頷きあうと友理奈さんの店のある雑居ビルの階段を上った。
「いらっしゃいませ~」
ということで無事、店に到着をした俺たちを店員さんが出迎えてくれる。
初めにやってきたのはいかにも地雷系といわんばかりの黒のスカートにピンク色のブラウスを身につけたツインテールのお姉さん。
店名も『闇病みYummy』だったしそういうコンセプトのお店なのだろう。
ニコニコ笑顔でこちらにやってくるお姉さんだっが、相手が高校生だと気づいたようで少し驚いたように首を傾げる。
「お客様、今日は二名様ですか?」
「え? あ、はい……そうです……」
お姉さんの質問にやや動揺した様子で答える明日花に「実は彼女は友理奈さんの妹で」と助け船を出す。
「あっ!! 友理奈ちゃんの妹ちゃんなんだっ!!」
そこでようやく事態を理解してくれたお姉さんは笑顔に戻ると後ろを振り向いた。
「ねえねえ友理奈ちゃんの妹だってっ!!」
なんて病みを一切感じさせない笑顔で他のおねえさん方へと声をかけると、ガラガラの店内で退屈そうにしていたお姉さんたちが一斉にこちらへと歩み寄ってくる。
「やだ、友理奈ちゃんの妹ちゃんかわいい」
「見て見て。ほっぺたぷにぷにだよ」
などなどおねえさん方は明日花の周りに集まって、明日花を愛でていた。そんな彼女たちを横目に眺めていると「来てくれてありがとう」と声がしたのそちらへと顔を向ける。
するとそこにはぶかぶかのパーカーに丈の短いプリーツスカートを穿いた友理奈さんが立っていた。
「友理奈さん?」
いつもとは格好もメイクも違う彼女に困惑していると、彼女はスカートの裾を摘まみながらにっこりと微笑む。
「どう? 似合ってる?」
「え? あ、はい。それはもう……」
「今日は全部私が払うから好きなだけ食べて帰ってね」
なんて言いつつ俺の腕にしがみ付いて、俺をテーブルへと誘った。
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