第13話

 ――このままじゃだめ……。


 リビングでの祐太郎と明日花のやりとりを眺めながら友理奈はそう確信した。


 祐太郎と明日花は確かに仲が良い。それはもちろん幼い頃からずっと一緒にいたのだから当然だし、きっと二人の間には切っても切れない絆が存在していることも理解できる。


 が、このままじゃまずい。


 それが二人を見た友理奈の考えである。


 さっきも言ったとおり祐太郎と明日花は切っても切れない絆で結ばれているのは疑いようのない事実である。


 が、それはあくまで幼馴染みとしてという但し書きがついたものであって、これからもずっと祐太郎と明日花が二人でいることができるかと言われれば疑問符が浮かぶ。


 男女の友情は確かに存在するが、友情だけで二人の距離をつなぎ止めておくことは難しいというのが友理奈の考えである。


 もう二人は高校生なのだ。このままお互いに恋愛を経験せずに大人になることなんてありえないし、現に祐太郎は好きだった女の子に告白までしたのだ。


 今回は祐太郎がフラれたため、明日花との関係が継続することとなったが、仮に祐太郎に彼女ができてしまったら今まで通り明日花と一緒にいることは難しくなるだろう。


 仮に明日花が祐太郎を好きでないのであれば別にそれでもいいのだが、彼女の反応を見る限り明日花は幼馴染みからもう一歩先の関係に進みたいと考えている。


 だったら今のままではまずい。


 だから友理奈は明日花に発破をかけたのだが、どうも可愛い妹明日花はなかなかに奥手な女の子である。


 昨日はせっかく祐太郎と二人でデートとしたというのに。


『べ、別に特別なことはなにもしてないぞ。だだだって、急に接近して祐太郎に拒否された私は泣いてしまうし……』


 なんて言いながら顔を真っ赤にして友理奈にデートの感想を告げていた。


 普通の男子であれば、この年齢になって二人でお出かけというだけでそれなりに察するものなのだが、友理奈の見立てでは祐太郎はかなりのバカである。


 おそらく祐太郎は深く考えることなく、なんとなく明日花との関係がこれからも続くと思っているし、明日花とのこれからの関わり方についてもなにも考えていない。


 奥手な明日花と鈍感な祐太郎。


 この二人に恋愛を意識させるのは簡単なことではない。


 ここは少し強硬手段をとってでも祐太郎に明日花を女として認識させる必要があるのだ。


 が、明日花はなにもしなければ強硬手段なんてとるはずがない。


 だから友理奈は食事中にもかかわらず明日花を玄関近くに連れ出して、危機感に気づかせることにしておくことにした。


 どうやら明日花は姉に怒られるとでも思っているようで、壁に背中をくっつけて両手を胸に当てながら怯えた目で姉を見つめている。


「お、お姉ちゃん……急にどうしたんだ?」

「明日花ちゃん、一応確認しておくけど、祐太郎くんのことが好きなのよね?」

「は、はわわっ……それはその……」

「はっきり言わなきゃだめよ。明日花ちゃん次第で私のやるべきことが変わるんだから」

「はわ……はわ……それはその……す、すすす好き……だぞ」

「よし、よく答えられました」


 友理奈は彼女の頭を撫でてやる。が、それでも明日花はなぜ姉に呼び出されたのか理解していないようで相変わらず怯えた目を姉に向ける。


「で、明日花ちゃん、明日花ちゃんは大好きな祐太郎くんを家に連れ込むことに成功したわけだけど、どうするつもり?」

「どうって……一緒にご飯を食べてゲームをするだけだけど……」

「甘いっ!!」

「はわわっ……」


 友理奈の目力に明日花がさらに怯える。


「明日花ちゃん、そんなんじゃ祐太郎くんとの関係はいつまで経っても縮まらないわよ」

「で、でも……それはその……ごにょごにょ……」

「祐太郎くんが他の女の子と付き合っちゃったら、もう二度と二人っきりでゲームなんてできないわね」

「それはちょっぴり寂しいぞ」

「本当にちょっぴり?」

「………………」

「明日花ちゃん、好きな男の子が他の女の子と仲良くして自分と会ってくれなくなることの辛さがわかる?」

「お姉ちゃん、まだあの人のことを忘れられないのか?」

「うるさいっ!! 今は私の話は関係ないの」

「はわわっ……ごめんなさい……」


 唐突に古傷をえぐられた友理奈は思わず声を荒げる。


 が、今は好きだと思っていた男の子が自分の大親友と一緒にホテルに入っていくのを目撃してしまった話は関係ないのだ。


 今更ながら泣きそうになりつつも可愛い妹の為に心を再び鬼にする。


「明日花ちゃん、女を見せなさい」

「お……女?」

「そうよ。今の明日花ちゃんは祐太郎くんにとっては男でも女でもどっちでもいい存在なの。だったらむしろ明日花ちゃんが女であることが不利になっちゃうわ。同性の友人ならば祐太郎くんが誰と付き合っていても関係ないけれど、異性だという理由だけで会いづらくなっちゃうわ」

「そ、そうかもしれないけれど……女を見せるってどういうことだ?」

「決まってるじゃない。祐太郎くんに明日花ちゃんの女性としての魅力を知らしめるのよ」

「でもどうやってそんなこと……」

「決まっているじゃない。色気を見せるのよ」

「い、色気っ!?」


 と、叫びながら明日花は目をぐるぐる回す。


「とりあえず今晩は祐太郎くんを家に泊まらせなさい」

「はわわっ!! そ、そんなこと私には言えないっ!!」

「ダメよっ!! ここは勇気を振り絞らなきゃだめっ!!」

「はわわっ……」


 厳しいかもしれないがこれは明日花の幸せのためなのである。可愛い妹が幼馴染みと一緒になりたいと願うのであれば、力尽くでもそうなるように持っていくのが姉の責務である。


「大丈夫、明日花ちゃんは可愛いしその気になればころっといくから」

「そ、そうかな……」

「まずは自信を持ちなさい」


 そう言って明日花の肩をぽんぽんと叩くと祐太郎の待つリビングへと戻っていくのであった。

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