第8話

 結局、猫のナルトラーメンと猫形オムライスを注文した俺たちは二つを共有するように食べた。


 その結果、俺がラーメン半分とオムライス一口、明日花がオムライスほぼ全部とラーメン半分を食べるという配分になりました……。


「ご、ごめん……美味しくてついうっかり……」

「気にするな。想定内だ」

「わ、私が多めに払うから」

「いや、割り勘でいいよ」


 さすがに食べ過ぎて申し訳なく思った明日花が謝ってきたが、明日花が美味しそうにご飯を食べる姿を見るのは嫌いではないので問題はない。


 それから俺たちは世界各国の珍しいネコちゃん見物をしてから、遊園地ゾーンに向かい、猫の形をした的にボールを投げつけるという残虐なアトラクションや、猫の形のコーヒーカップに乗ったりとにゃんにゃんランドを満喫した。


 そうこうしているうちに太陽は徐々に西の空へと沈んでいき、まだ5時だというのに辺りが薄暗くなり始める。


 すっかり日が短くなったもんだ。なんて考えながら園内を歩いていると明日花が不意に足を止めて「ゆ、祐太郎……」と俺を呼ぶ。


「どうした?」

「最後にあれに乗りたいぞ」


 そう言って彼女は園の隅っこにある観覧車を指さした。


 さすがはにゃんにゃんランドだ。その観覧車もまたゴンドラが猫の形になっている。


「そういえばまだ乗ってなかったな。いや、でもお前高いところ苦手じゃねえか」

「そ、それはそうだけど……それでも私は乗ってみたいぞ」

「どういう風の吹き回しだ? まあ俺はかまわないけど」


 普段は少しでも高いところに行くと足がすくむくせに率先して観覧車に乗りたいとはどういう風の吹き回しだ? 猫型のゴンドラに乗ってみたくなったのだろうか?


 ということで観覧車へと移動すると、チケットを購入してゴンドラに乗り込もうとした俺たちだった。


「あ、そこのカップルのお客様」


 と係員のお姉さんが俺たちの元へとやってくると一眼レフを俺たちに向けて「はい、チーズっ!!」と俺たちの写真をパシャリと撮った。


 どうやら写真を撮って下りたときにその写真を販売するという古典的な商売をこの遊園地でもやっているようだ。


 ……まあ買わないけどな……。


 なんて思いながらも改めてゴンドラに乗り込もうとすると隣を歩いていた明日花がなにやらもじもじしている。


「今更になって怖くなったとか言い出すんじゃねえだろうな?」

「お姉さんが私たちのことを今、カ、カカカップルって言ってたぞ……」

「いや、まあ若い男女が二人で観覧車に乗れば誰だってカップルだと思うだろうさ」

「そ、そういうものなのか?」

「なんか問題でもあるのか?」

「や、やっぱりカップルじゃないと思われないようにカモフラージュで手とか繋いだ方がいいのか?」

「いや、誰に対して気を遣ってるんだよ……」


 とバカなことを言う幼馴染みをおいてゴンドラへと乗り込むと「ま、待て、私も乗る」と慌てて彼女も乗り込んできた。


 ということでいざ乗り込む。


 観覧車はゆっくりと上昇していき、初めは園内を囲む森しか見えなかったのだが高度が上がるにつれてその奥に広がる繁華街や住宅街の明かりが視界に入り、月並みな言い方だけれど宝石箱をひっくり返したように美しかった。


「綺麗だな……」


 なんて素直な感想を述べて隣に座る明日花へと顔を向けた……のだが。


「はわわっ……」


 言い出しっぺの明日花は予想通りというかなんというか、俺の腕にしがみ付いたままそれこそ猫のように体を丸めて俯いていた。


 窓の外に目を向けるどころじゃないようだ。


「おい、夜景を見ないと金がもったいないぞ……」

「わわわわかってるっ!! な、なあ祐太郎、落ちないよな?」

「落ちるわけねえだろっ!!」

「な、なんだかさっきからこのゴンドラみしみしいってるぞ?」

「観覧車ってそういうもんなんだよ」


 さすがに観覧車に乗って外の景色を見ないのはもったいないどころじゃない。


「ほら、少しでも良いから夜景を見たらどうだ? 綺麗だぞ?」

「わ、わかった……けど落ちないように手を繋いでいてくれ」


 そう言って彼女は俺の手をぎゅっと握ったまま、恐る恐る顔を上げた……のだが。


「はわわっ……」


 すぐにまた顔を伏せる。


「おい、そこで今日に負けたらいつまで経っても前に進めないぞ」

「わ、わかってる……」


 そう言って彼女は再びゆっくりと顔を上げると5秒ほど街の明かりをぼーっと眺めてからまた顔を伏せた。


「き、綺麗だったぞ……」


 まあ5秒持っただけでも十分すぎる進歩か……。


 結局、明日花はそれからずっと俺の体にしがみ付いて丸まったままだった。


 観覧車が15分ほどかけて元の地上へと戻ってきたので「おい低地についたぞ」と彼女の背中をポンポンと叩いてゴンドラから下りる。


 さてさてそろそろ帰りますか。なんて考えながら乗り場から地上に繋がる階段を降りると、乗る前に写真を撮ってくれたお姉さんが現像した写真を持って俺たちの元へとやってきた。


 まあ買わないけれどね。


 いかがですか? と尋ねてくるお姉さんに「今回はちょっと見送らせていただきます」と一応申し訳なさそうな顔で返事をして歩き出そうとしたのだが。


「わぁ……」


 と隣の明日花がお姉さんの写真へと目を向ける。


 その写真には当たり前だが俺と明日花が並んで立つ姿が写っている。


「あ、あの……私、その写真買います……」

「ん? 買うのか?」

「だ、だってこんな風に二人で写真を撮るのなんて久しぶりだし……」


 そう言われてみれば明日花と二人で写真を撮るのなんて何年ぶりかもわからないレベルだ。


 でも写真なんて今時スマホでも撮れるんじゃないのか?


 そうおもわなくもなかったが、彼女はポシェットからがま口を取り出すと千円札を二枚取り出してお姉さんに手渡した。


「ありがとうございました~」


 お姉さんからにゃんにゃんランドのフレーム付きの写真を受け取った明日花はそれを宝物のようにぎゅっと胸に抱きしめながら少し前を歩く俺を追いかけるように歩く。


「な、なあ祐太郎」

「どうした?」

「今日は楽しかったな」

「そうだな」

「また一緒ににゃんにゃんランドに来ような」

「そうだな。たまには遠出も悪くない」


 いつもは家や近場で遊ぶことが多いが、たまには少しお金を使って遠出をするのも悪くない。


 相変わらずぎゅっと写真を抱きしめる明日花を眺めながら、俺はそんなことを思うのであった。

――――――――――――


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