第6話

 あっという間に日曜日がやってきた。


 今日は明日花とにゃんにゃんランドに行く日である。


 いつもならばどちらかがどちらかの家に出向いて、どこに行くにもそこから出発することが多いのだが今日は駅前で待ち合わせをすることになった。


 ということで事前にメッセージで決めておいた駅前の噴水前へとやってきた俺だったのだが。


「あ、祐太郎くんだっ!!」


 噴水を囲むように設置されたベンチに座っていた俺に誰かが声をかけてきたので、そちらへと顔を向けるとそこには見覚えのある女性がいた。


「あ、友理奈さんっ」


 なぜかこちらへと歩み寄ってきたのは明日花……ではなく彼女の姉である大学生の友理奈さんだった。


 ……なんで……。


 疑問符を浮かべつつも彼女を見やると彼女はベンチの俺の隣へと腰を下ろした。


「きょ、今日は大学ですか?」

「ううん。さすがに日曜日はお休みだよ。実はね、今日は祐太郎くんにお願いがあってきたの」

「俺にお願い?」

「ほら、私、デザイン系の大学に行ってるじゃない?」

「え? そ、そうですね」

「それでね、最近はお洋服のお勉強をいっぱいしていて明日花ちゃんにはそのモデルを頼むことが多いの」

「そうなんですか……」


 よくわからないがそういうことらしい。


 ……けど、なんでそんなことを今、俺に伝えてきたんだ?


「それでね、ここからがお願いなんだけど、明日花ちゃんのお洋服が似合っているかどうか祐太郎くんにも見て欲しいんだよね。こういうお洋服が可愛かったとか、こういうのは少し微妙だったとか、男の子の意見も聞いてみたいなって」

「な、なるほど……」

「これから明日花ちゃんが色んなお洋服で登場すると思うから、どの明日花ちゃんが一番可愛かったか私に教えてね」

「俺なんかの意見で良ければ」

「十分だよ~。じゃあ私が伝えたいことはそれだけ。にゃんにゃんランド楽しんできてね」


 なんてポンポンと俺の肩を叩くと友理奈さんはどこかへと歩いて行ってしまった。


 本当に俺なんかの意見が参考になるのかはよくわからないけれど、友理奈さんには幼い頃から色々と面倒を見てもらったし、俺が力になれるならやれることはやりたい。


 なんて考えていた俺だったがふと視線を感じた。


 視線の感じた方へと顔を向けると、そこには木の陰からひょっこりと顔を出してこちらの様子を伺うベレー帽を被った幼なじみの姿があった。


「そこでなにやってんだよ……」

「お、おい、祐太郎……」

「なんだよ……」

「そ、その……今日はお姉ちゃんが選んだお洋服を着ているからいつもと違う感じかもしれないけれど……変な顔するなよ」


 そう言って赤面する明日花を見て俺は察した。


 なるほど……。緊張してややポンコツ化している明日花を見て俺が動揺しないように、先んじて友理奈さんが俺に説明をしに来たようだ。


「心配するな。友理奈さんから説明を受けているから事情は知っている」


 そう言うと明日花は少し安心したようにほっと胸をなで下ろすと木の陰から出てきてこっちに歩いてきた。


 彼女はベンチに座る俺の前に立つと、相変わらず恥ずかしそうな顔で俺から顔を背けている。


 なるほど……さすがは友理奈さんだ。


「ど、どうだ?」


 なんて真っ赤な顔を背けながら俺に感想を求めてくる明日花。


「どうって言われても」

「私はお前の感想をお姉ちゃんに伝えなきゃいけないことになっているんだ……」

「ああ、なるほど……」


 友理奈さんのためならと彼女の洋服を眺める。


 いつもはパーカーにスカートという出で立ちの彼女だが当然ながら今日は全然違う。


 今日の明日花は秋をイメージしたコーディネートなのか、黒ストッキングにベージジュのチェック柄のミニスカート、さらには真っ白いタートルネックのトップスにこれまた薄いベージュのカーディガンを羽織っていた。


「はわ……はわわっ……」


 どうやら彼女は着慣れていないお洋服に緊張しているようで、肩に提げたポシェットの紐をぎゅっと握り絞めながら俺からの感想を待っている。


「か、可愛いんじゃないか?」


 ということで素直な感想を述べる。


 前にも言ったが明日花はかなりの美人さんなうえに脚も長くスタイルのも良いのでなにを着ても似合うのだ。


 なんというか明日花が普段あまり身につけない女の子っぽい格好をしているので、少し違和感はあるがそれでも可愛いと思う。


「べ、別に私やお姉ちゃんにお世辞を言わなくてもいいんだぞ?」

「いや、お世辞なんか言わねえよ。全体的に秋っぽさが出ているし季節にぴったりの良いコーディネートだと俺は思うぞ」

「ほ、本当に?」

「ああ」


 そこでようやく彼女は俺の意見を信用してくれたようで、ようやくこちらに笑顔を向けると俺の隣に腰を下ろした。


 彼女はストッキングに覆われたふとももの間に手を置いたままなにやらそわそわしている。


 そこで気がついた。今日の明日花からは良い匂いがする。


 香水? 普段、明日花は香水を付けないので、おそらくこれも友理奈さんの仕業だろう。


 が、別に香水の匂いがきついわけではなく、少しシャンプーの匂いがする程度の控えめな香りだ。


 ってかコーディネートと匂いは関係ないよな……なんて思いつつも、いつもとは違う明日花の香りに困惑していると、彼女は俺の顔を覗き込んでくる。


「わ、私は今日がすごく楽しみだったぞ……」

「そうだな。にゃんにゃんランドなんて小学生のとき以来だし」

「そ、それもそうだけど……祐太郎と遠出をするのも久しぶりだからな」

「そういえばそうだな……」


 普段は家か駅前のゲーセンとかが多いし。


「今日はいっぱい楽しもうな」


 なんて両手の拳をぎゅっと握って俺にアピールしてくる明日花。


「え? お、おう、そうだな……」


 ということで俺たちは電車に乗ってにゃんにゃんランドへと向かうことにした。

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