第12話

デボラさんに連れられて、私とカオリは

用意された馬車へと乗りこんだ


あの人がいるのかと緊張していたけれど、馬車の中には誰もいなかった。


私の心中を察してかデボラさんは

「お嬢様はお二人を迎える為に先にお戻りになっています」


と尋ねてもいないのに述べる。


どこに連れていかれるのだろうか。


カオリは最初こそ馬車に乗ったことに興奮してはしゃぎ、窓から外を眺めていたけれど、そのうちに疲れたのかうとうととまどろみ始めた。



どのくらい馬車に揺られただろう。


馬車が停車する頃には、カオリは寝息をたてていた。熟睡するカオリを抱き抱えると、デボラさんと共に馬車から降りる。


馬車が停車したのは、大きな邸宅の前だった。


私達が玄関の付近に近づくと、中からお仕着せ姿の女性が扉を開けてくれた。


デボラさんがその女性に耳打ちすると、その女性は一礼して立ち去った。


間もなく若い男性使用人と中年の女性が現れた。


「お嬢様をお預かりします」


若い男性がカオリを抱えようと手を伸ばしてきた。


見ず知らずの人に大事なカオリを預けられるはずもない。


私は断固拒否した。


しばらく言い合っていたけれど、埒があかないので、結局そのままカオリを抱き抱えていくことになった。



案内された部屋へ到着すると、カオリをソファーに寝かせた。先程の中年の女性がブランケットを手渡してくれたので、カオリへブランケットをかけると、私は別のソファーへと案内された。



とても広い部屋だったけれど、見える所にカオリがいるからほっとする。

二人で話したいから別室でと提案されたけど、そんなこと出来るわけがない。



デボラさんが退室して間もなく、ノックの音が聞こえた。


そして室内に現れたのは、あの人だった。


「久しぶりね、リナ。元気だった?」


全身に一気に鳥肌が立つ。


あぁ、この人は全く何も感じていないのだわ。


気軽に話しかけてくる口調は


まるで懐かしい知人にでもあったかのようだ。


どういう神経をしているのだろう。


私は冷静に言葉を交わせる準備ができていなかった


「とりあえずまずは紅茶を淹れましょう。


サラお嬢様は、室内に用意されたティーセットへと手を伸ばし、ゆったりと紅茶を淹れる。


不本意だけれど、紅茶の芳醇な香りを感じじる。


「どうぞ。心配しなくても毒なんて入ってないわ。ふふふ」



私の警戒心を解くためなのだろうけれど、笑えない。


頑なに紅茶には手をつけなかった。


サラお嬢様とこうして一緒に向き合うと、必然的に商会を辞めたあの時のことを思い出す。



じっと見つめていると(睨んでいたともとれるくらいに)


サラお嬢様はティーカップをゆったりとテーブルに戻すと、私へと視線を向ける。


「急に呼び出して驚いたでしょう?

ごめんなさいね。リナにちょっとお願いがあって。

 提案というべきかしら。

ちょっと、私の話しをきいてくれるかしら?少し長くなるけれど」



こちらの返答など初めから求めていないかのように、あの時と同じくサラお嬢様は淡々とと語り出した。






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