第11話 サラお嬢様

家にいても気まずいだけなので、気分転換も兼ねて私は、カオリと散歩に出かけた。



特に行き先を決めている訳ではなく、ブラブラと歩く。


何の気なしに周囲を見渡すと、通りの向こうのお店から女性が出てきた。


その姿を見て驚愕する。


まさか。そんな。


目が合ったよう気もするけれど、顔を逸らしてその場から急いで立ち去ろうとした。


「リナ!ねぇ、待って。 あの親子を連れてきてちょうだい」




そんな…どうしてここに?

人違いであってほしいと

こちらに気づかないでほしいと

なるべく平然を装って早足で通り過ぎようと思ったのに。


偶然とは恐ろしいわ

会いたくない人にはどうしてこんなにもすぐに見つかるのだろう。


ルーカスとの再会とは違って、死んでも会いたくないと思っていたのに


ドロドロとした醜い感情が心を支配する


それは決して消えない心の一点のシミ


どんなに消そうと隠そうとしても


必ず留まり続けていた感情。


かなり小さくなっていたはずなのに、


そのシミはまるで心全体を蝕むように一気に広がりをみせる



呑み込まれてはダメ


私はカオリと繋いだ手をギュッと握り締める



あの人にはカオリを会わせたくない



幼いカオリだけ一人で帰す訳にもいかないし


このまま気づかないふりで逃げたとしても、


元従業員とはいえお咎めはないはず。


あの人も元貴族とはいえ、今は同じ平民。


多少何か言われるかもしれないけれど、


カオリにはこんな醜い姿を見せたくない。


カオリを守ること


敷いては自分の心の平安を保つことが大事





「カオリ、お母さんと一緒にかけっこして帰ろう。」


「お母さん、手を離したらダメ?」


「ダメ!」


思わず強い口調で咎める


ビクッと硬直するカオリ



「転ばないようにお母さんが手を繋いでいたいの。さぁスタート」



私は意を決してカオリと小走りになる




!!!


「えっ?」


走り出して間もないのに、腕を掴まれたことに驚く


貴族のお嬢様が私に追いつくなんて


カオリを連れているとはいえ、幼い頃から活発な私はそれなりに速かったのに。



「お母さんどうしたの?」



状況が飲み込めずに戸惑うカオリ


嫌悪感でいっぱいで、目を合わすことすらしたくないのに。



仕方なく振り向くと、そこには…


「離してください! えっ、どなたですか?」



てっきりお嬢様だと思い込んでいたけれど、腕を掴んでいたのは見たことのない女性だった。


先程サラお嬢様の後ろにいた人だわ。


「お嬢様がお呼びです。お二人ともご同行を」


毅然とした女性の態度に怖気付くけれど、このまま大人しく付いて行くのは癪だった。


「どなたか存じませんが、お会いする必要性を感じません」


私は掴まれた手を振り払うと、軽く睨み返す。


「そうですか。申し遅れました。私はサラお嬢様のお世話をするようにと申し付けられております、デボラと申します。以後お見知り置きを。では参りましょう」


「お名前を伺いたかった訳ではありません。もうお会いすることもないでしょうし、これで失礼します」



私はもうこれ以上話すこともないので、帰ろうと試みる。


「そうですか。私はお嬢様が不自由なことがないように#お世話__・__#をするのが仕事です。お嬢様にあなた方をお連れするように申し付けられましたので、帰られては困ります。


大声を出してもいいのですよ。騒ぎを起こして困るのはあなたの方では?



噂はすぐに広まります。それが#事実とは異なっていたとしても__・__#」



「ど、どういう意味ですか?私は困ることなんてしていませんけれど。強引に引き留めるあなたの方に非があると思いますが」


デボラさんは淡々と表情を崩すことなく語る。忠誠心が強い人のようだ。私にとっては危険な人


「待ってください!


あちらでお嬢様がお呼びです!


あぁ、やっとお会いできました。



そちらが#例の__・__#お嬢様なのですね!


さぁ一緒に参りしょう。


これでゴーデル商会の未来は安泰ですわ!」




突然デボラさんは大声で話し出す。


私に向かってというよりも周りへ向けて。


まるで観客に語りかけるように。



「な、なにを言っているのですか?」


「混乱されているのですね。無理もありません。


さぁ、詳しいことはあちらで話しましょう。」


有無を言わせぬ口調でデボラさんに腕を掴まれる。


「振り解いて逃げても構いませんよ。


この状況であなたが逃げたとしたら、

どんな噂が広まるでしょうね?

既に隠し子なんて噂もあるのでは?


世間には事実なんて、関係ないのですよ。


面白おかしく噂は広まるものです。


あなたがもしご同行くださるなら、人違いであったと訂正しましょう」


「お母さん?」


「あら、お姉さんと一緒に行こうか?」


「カオリに触らないでください!」



デボラさんがカオリに近づくのが許せなくて、大声をだす。


ガヤガヤと周囲に人が集まってきている。



もう、ここでの生活は無理かもしれない。


これ以上騒がれる前に大人しく付いて行くのが、今考えられる最善策かもしれない。


「分かり…ました。」



私はカオリと共に渋々デボラさんと共に歩き出した













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