第10話

窓から外を眺めていたエミリオは


意を決した様子でこちらに振り返る。



私の目を捉えると、言葉を続けた。


「ある噂が流れている。」



!!!


噂…まさか


マーガレットさんから聞いたことが頭をよぎる。


動揺して落ち着かない


「その様子だと知っているんだね。」



「…」



私は返答につまり、仕方なく頭を垂れる。



「はぁ。そうか」


「…」

「…」


私達はしばらく無言で見つめ合っていた。

私は別にやましいことなどないので、困惑していた。


エミリオの視線は鋭かった。


何を怒っているの?


私は言いようのない不安にかられて何も話すことができなかった。


「カオリを連れて行くと、ざわついていたよ。

あれが渦中の娘かって。


俺に似ていないとか、


駆け落ちしたのかとか


不義でできた娘じゃないかとか


そんな噂何も知らないのに突然言われた俺の気持ちがどんなのか分かるか?」




「えっ、待ってエミリオ、私だって困惑してる」


「困惑?そんな噂知ってるなら教えてほしかったよ。そしたらカオリを連れて行ったりしない。子供に聞かせていいような話しじゃないだろう。それとも、俺を苦しめたかったの?」



いつもは温厚なエミリオがこんなにも感情をあらわにするのは珍しい。余程何か言われたのね。


いったいどうして。


「どうして、私がエミリオを苦しめるの!そんなこと思ったこともないわ」


私はエミリオの言葉に傷つき涙がこみあげる。

あなたには感謝しかないのに



「どうだか。知らなかったのは俺だけなのか?

ちょうど5年前だしな…


絶対に俺が父親だと100%の自信はもてなかったよ


まぁ仮にそうだったとしても、真実をいってほしかった」



「エミリオ!何てことを言うの?


どこからどう見ても私達の娘じゃない!それを」


「あぁ髪色も、顔立ちも俺にはにていない。リナにそっくりだが、ルーカスさんも髪色同じだよね」



「エミリオ!目元はあなたにそっくりじゃない。いったいどうしたの?エミリオらしくない」



私は半ば半狂乱になって泣き叫ぶ



「はッ、らしくない?

リナ、そもそもリナは俺のことどれくらい知ってるの?

俺のことよりもあの人、

ルーカスさんと過ごした時間の方が長いんだよね?



リナがルーカスさんのことを忘れられなくても、それでも俺はいいって思ってた。


だからこそ正直に話してほしい。


ルーカスさんとはもう会っていないよね?」



「それはっ」


会っていないと即答できなかった。

エミリオの考える意味あいでは会っていない。本当に偶然に再会しただけ。


「会ってるんだね?」


「ちがうわ」


「リナは嘘つくのが下手だよね。


そっか…



そうなんだ。ルーカスさんと」



「エミリオ!誤解しないで。先日偶然に会ったの。本当よ」


真実を話しているだけなのに、どんどん誤解されていく。


一度芽生えた疑惑は、簡単には払拭できない。


「もうやめよう」



ふぅと昂った気持ちを抑えるように息を吐き出したエミリオは、部屋から出ていった。



一人取り残された私は、現実が受け入れられずにどんどん孤独感に苛まれた。



その日以降、私達はカオリの前以外で会話をすることはなくなった。


カオリの前でも形式的な会話だけだった。


何度も誤解を解こうと説明を試みたけれど聞く耳をもってはくれなかった。



リチャード様はエミリオにも目をかけてくれているようだ。


噂はそのうちおさまるからそれまで休むように言われたようだ。


商会は信用が第一だからと。



とはいえ、いつ復帰できるのかもわからな不安定な状況に、苛立っている。


だから、きっと、



八つ当たりされているだけだよね



私達、大丈夫だよね







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