第9話 礼拝堂の試練

翌日、アレンとリナは学園の東側にある古びた礼拝堂に足を運んでいた。この礼拝堂は滅多に使われることがなく、神秘的な雰囲気に包まれている。試練の場所として記されていたこともあり、二人は緊張を抱きながら礼拝堂の中に入った。


「ここが二つ目の試練の場所か…」


アレンは周囲を見回しながら呟く。礼拝堂の中央には大きな石像が立っており、その周囲に何かしらの魔力の痕跡が感じられた。リナがその石像をじっと見つめ、慎重に魔力を探り始めた。


「この石像、何かを封じ込める役割があるみたい。けれど、それを解放しないと試練は始まらないのかもしれないね」


リナが推測を語ると、アレンも無色の魔力を石像に注いでみることにした。すると、石像が微かに揺れ、重い音と共に動き始めた。


「気をつけて、アレン…何かが起きるかもしれない」


リナが緊張の面持ちで言葉を口にする。石像が完全に目を開くと、その目には赤い光が宿り、やがて低く響く声が二人の耳に届いた。


「我が試練を受ける者、真実を貫ける心を持つかを試さん」


その言葉と共に、礼拝堂全体が暗闇に包まれ、二人は完全に孤立したような感覚に陥った。


「これも、幻影…?」


アレンが不安げに呟く。すると、周囲に立ち並ぶ鏡が現れ、そこには彼の姿が映し出されていた。しかし、鏡に映るアレンの姿は、どこか歪んでおり、嘲笑するかのような表情を浮かべている。


「アレン、それ、君自身の影かも」


リナが静かに指摘する。幻影にしては妙に生々しく、まるで彼の内面の一部が具現化したかのようだった。


鏡の中のアレンは冷たく彼を見つめ、嘲笑するように囁く。「お前は本当に、この学園の封印を解き明かす力があるのか?無色の魔力など、何の役にも立たない…」


アレンはその言葉に一瞬戸惑ったが、すぐに意識を引き締めた。自分の無色の魔力に対する疑念を抱きながらも、この力が役立つと信じてここまで進んできたのだ。


「僕は、この魔力が無意味だとは思っていない。この力で封印の真実を知り、学園を守りたいんだ」


アレンがはっきりと鏡の自分に答えると、鏡が淡い光を放ち、幻影が消え去っていった。そして再び礼拝堂に光が戻り、リナの姿が見えた。


「試練を乗り越えたんだね、アレン」


リナは穏やかな表情で彼を見つめ、次に自分が試練に挑む番だと悟った様子で石像に向き直った。彼女もまた、同じように試練を受けなければならないようだった。


リナが石像の前に立つと、再び礼拝堂が闇に包まれ、鏡が現れた。そこにはリナの姿が映し出されていたが、その表情は悲しげで、まるで重い責任に苦しんでいるかのようだった。


「リナ…」


アレンは静かにリナの姿を見守る。鏡の中のリナは、苦しそうに声を絞り出し、こう囁いた。


「守護者として生まれた者は、学園のために全てを捧げなければならない。だが、何のためにそれが必要なのか、お前に理解できているのか?」


リナは鏡の中の自分をじっと見つめ、その問いに対してしばらく言葉を失っていた。だが、やがて深く息を吸い込み、静かに答えた。


「私はこの学園で育った。ここには私の全てがある。私が守るべきものは、単に学園という建物ではなく、ここで生きる人々や、これからの未来なんだ」


その答えに、鏡の中のリナの姿は微笑みを浮かべ、ゆっくりと消えていった。再び光が戻り、試練が終わったことを知らせるかのように礼拝堂は静まり返った。


「お疲れさま、リナ」


アレンは彼女にそう声をかけたが、特に大袈裟な感情を表すことなく、彼女も冷静に頷いた。「ありがとう。次の試練もすぐに訪れるかもしれないから、心の準備をしておかないとね」


二人は礼拝堂を後にし、夜の静寂の中を歩いて学園に戻った。それぞれが試練を乗り越えたことで、心の中にさらなる覚悟が生まれていた。次の試練が待ち受けている場所を調べつつ、封印に隠された真実を解明するための決意を新たにした。


その時、アレンはふと、これまで感じたことのない感覚に気づいた。それは、無色の魔力が彼の中で少しずつ変化し、成長しているかのような感覚だった。


「僕の力も、少しずつ形になっているのかも」


小さな手応えを感じたアレンは、リナと共に次の試練への準備を進める決意を固めた。

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