第7話 不穏な予兆と新たな発見
翌朝、アレンとリナはいつものように訓練場で基礎魔法の訓練を受けていた。昨夜の探索から戻り、二人の頭の中には禁忌の扉と失われた記憶のことがちらついていたが、学園の他の生徒たちは普段通りに訓練に励んでいるようだった。
「アレン、君の無色の魔力が最近少しずつ安定してきてるね」
リナはアレンの魔力が徐々に制御しやすくなっていることに気づき、嬉しそうに声をかけた。アレンも小さく笑みを浮かべた。
「リナのおかげだよ。無色の魔力がどんなふうに使えるか、やっと掴めてきた気がする」
アレンの無色の魔力は、特別な探知能力を持つため、封印や古代魔法に関連するものに敏感に反応することが分かりつつあった。それが、失踪事件や学園の謎解きにおいても大きな役割を果たすだろうと、二人は信じていた。
昼休み、二人は学園の中庭で一息つきながら、昨夜の扉について話し合っていた。
「禁忌の扉…もしあれが本当に学園の失踪事件に関わっているなら、どうにかして中に入らないと」
アレンがそう言うと、リナは少し考え込んだ表情を浮かべた。
「確かに、でも不用意に開けるのは危険よ。私たちが知っている以上に強い封印が施されているかもしれない」
その時、ふとリナが遠い目をしながら話し始めた。「私が小さい頃、家族から聞いたことがあるの。『封印は人々の記憶を守り、危険を遠ざけるためのものだ』って。だから、簡単には破れないようになっている」
アレンはその言葉に引っかかりを覚えた。「記憶を守るための封印…それって、失踪事件で消えた人たちと関係があるのかな?」
「うーん、まだわからない。でも私たちで少しずつ探っていこう」
リナの柔らかい笑顔に、アレンも少しだけ不安が和らいだ。二人は昼食を終え、午後の授業に向かっていった。
その夜、アレンはリナと別れた後も禁忌の扉や封印について考えていた。そして再び、昨夜見つけた書物の記述が脳裏をよぎる。
「光無き場所、声の響く場所…」
ふとした思い付きでアレンは一人で再び図書館に向かった。人けのない図書館に入ると、静寂の中に漂う何か重い気配を感じた。しかし彼はそのまま、封印された本棚の前に立った。
すると突然、背後から誰かが声をかけてきた。
「君は、またここに来たのか?」
アレンが振り向くと、そこには学園の教師であるオズワルドが立っていた。彼は冷静な目でアレンを見つめながら、ゆっくりと近づいてきた。
「オズワルド先生…」
アレンは少し驚いたが、すぐに冷静を取り戻して質問を投げかけた。「先生、この学園には封印や禁忌の扉について何か特別な意味があるんですか?僕たちが知るべきことがあるのなら教えてください」
オズワルドはその言葉に一瞬ためらいを見せたが、やがて重々しい声で答えた。「君がそのことを知りたいのは分かるが、禁忌の扉や封印に関する知識はまだ君たちが触れるには危険すぎる」
彼の目には、どこか覚悟を決めたような強い意志が込められていた。「アレン、私が言えることはただ一つだ。封印は、人々を守るためのものであり、古代の力に触れるときは慎重でなければならない。それを忘れるな」
オズワルドはそう言い残し、図書館を去っていった。彼の言葉の意味は重く、アレンの中にさらに疑念と好奇心を呼び起こした。
翌日、アレンはリナにオズワルドとのやり取りを話し、二人でどうするべきか話し合った。禁忌の扉に近づくことで学園の謎を解明できるかもしれないが、その代償も計り知れない。
「僕たちにとって、これがどれほどのリスクになるか分からないけど、ここでやめるわけにはいかない」
リナはアレンの言葉に真剣に耳を傾け、静かに頷いた。「私もそう思う。もし何かが起きたら、二人で協力して乗り越えようね」
夜、二人は学園の廊下を再び歩き、禁忌の扉へ向かう決意を固めた。廊下に満ちる月明かりが二人の影を長く伸ばし、やがて禁忌の扉が見えてきた。
扉の前に立つと、二人は互いに視線を交わし、ゆっくりと息を整えた。
「アレン、行こう」
リナが静かに言い、アレンは無色の魔力を扉に注ぎ込んだ。すると、扉が微かに震え、彼らを待ち受けるかのように静かに開かれていった。
扉の奥に広がっていたのは、古びた石造りの廊下だった。廊下の奥には、再び「禁忌」の文字が刻まれた大きな石碑が立っており、その周囲にはいくつかの古代の紋章が描かれていた。
「これが…封印の中心?」
アレンとリナは緊張しながら石碑に近づいた。その時、石碑に刻まれていた文字が淡い光を放ち始め、二人の脳裏に再び何かが流れ込んできた。それは、かつてこの学園で行われていた古代魔法に関する儀式の記憶だった。
「この封印は、何かを外に漏らさないためのものじゃなくて…逆に、内側から守るためのものなんだ」
アレンはその言葉に気づき、顔を強張らせた。この封印は、学園を守るために施されたものではなく、内部にある危険な存在を封じ込めるためのものだったのだ。
「でも、なぜ?」
リナが疑問を口にしたその瞬間、石碑から黒い霧のような影が現れ、二人に襲いかかってきた。霧は冷たく、まるで生きているかのように不気味に動きながら、二人を包み込もうとした。
「リナ、下がって!」
アレンはとっさに無色の魔力を放出し、影を払いのけようと試みた。しかし、影は無色の魔力にも抵抗し、しつこく二人にまとわりつく。
リナも護符を掲げ、精神魔法で影を抑え込もうとしたが、影の力は予想以上に強力だった。「アレン、この影は封印を破ろうとする力なのかもしれない」
アレンは必死に魔力を込め、無色の魔力を全身に巡らせた。そして、自分の中で新たに湧き上がってくる感覚に気づいた。無色の魔力が、影の力に反応し、対抗できる可能性を秘めているのではないかと直感したのだ。
「無色の魔力…もしかして、この影を封じ込めるための鍵なのかも…」
アレンは目を閉じ、魔力を影に直接向けて放出した。すると、影が一瞬震え、徐々に後退し始めた。影が弱まっていく様子を見たリナも、精神魔法を補助として使い、二人で協力しながら影を押し返した。
「アレン、もう少しだよ!」
リナの声に励まされ、アレンはさらに魔力を高め、影を完全に封じ込めようと集中した。そしてついに、影は霧のように消え去り、再び静寂が訪れた。
息を整えながら二人は顔を見合わせ、安堵の笑みを浮かべた。だが、彼らの心の中には、影の正体や封印の本当の意味に対する疑念が残っていた。
「リナ、影が封印の力を破ろうとしていたなら、学園にとって大きな脅威がまだ潜んでいるはずだ」
リナは真剣な表情で頷いた。「そうだね。学園に潜む闇と、封印の謎をもっと解き明かさないと、他の生徒も危険にさらされるかもしれない」
二人は再び扉の外へと出て、互いに決意を新たにした。学園の謎を解き、禁忌の扉が守るべきもの、そして封印の意味を完全に明らかにするために。
その夜、月明かりの下、アレンとリナは新たな手がかりを求め、さらなる冒険への準備を始めた。
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