第3話 学園の異変
「君が、新しく転入してきた生徒か?」
後ろから響いた声に、アレンは驚いて振り向いた。そこには、背の高い男性が立っていた。彼の短い銀髪は整っており、鋭い目つきが印象的だが、その表情はどこか親しみやすさも感じさせた。彼は黒いローブを纏い、腰には魔法の杖を携えていた。学園の教師であることがひと目で分かった。
「ええ、そうですアレン・スレイターです。」
アレンが答えると、男性は軽く頷き、手を差し出した。
「遅くなってすまない。私はオズワルド・メイラ。この学園で魔法理論を教えている。学園長から話は聞いているよ。君が、新しく編入した生徒だな」
彼の言葉に、アレンは少し戸惑いながらも頷いた。
「君を探していたんだ。学園長が君に会いたいと言っていたが、リナが先に案内してくれていたようだな」
「すみません、勝手に連れてきちゃいました!」リナが笑顔で割って入る。オズワルドは苦笑しながら彼女を見つめた。
「リナ・エルフィード…君が関わっているなら、安心だな。学園長の所に行く前に、少しこの学園の仕組みを教えておこうと思ってね」
「私も一緒に行く!」とリナが言いながら、アレンの隣に並んだ。
オズワルドはそれを特に止めることなく、軽くうなずいて先を促した。
「この学園は、世界でも指折りの魔法使いを育成する場所だ。君がすでに学んでいるかもしれないが、学園は大きく五つの魔法系統に分かれている。攻撃、守護、回復、召喚、そして精神だ。この中で、君がどの系統に属するかはまだ分からないが、基礎訓練を通して見つけていくことになる」
歩きながら、オズワルドは学園の廊下を進み、時折見える訓練場や教室について説明を加えていく。生徒たちはそれぞれ、魔法の訓練や研究に集中しており、宙に浮かぶ火球や水流が校内の至るところで見られる。
「君の魔力については、私も興味がある。まだその力がどのように働くのか、完全には解明されていないからな。ただ、君がこの学園にいる限り、必ず自分の力を見つけることができるだろう」
オズワルドの言葉は、アレンの胸に少しずつ自信を芽生えさせた。まだ自分がこの世界で何をできるのか分からないが、学園での学びがその答えを与えてくれるかもしれない。
彼らが歩いていると、突然、廊下の奥から大勢の生徒が慌ただしく走ってくるのが見えた。ざわめきが広がり、空気が一気に緊迫した。
「どうしたんだ?」オズワルドが近くの生徒を呼び止め、問いかけた。
「先生、大変です!また…また失踪事件が起きました!」
その言葉に、オズワルドは顔を強張らせた。アレンも、リナも、その言葉の重さをすぐに感じ取った。
「失踪事件…?」アレンが不安げに尋ねると、リナが説明を始めた。
「ここ最近、学園の生徒が何人も突然行方不明になってるの。理由も分からなくて、みんな怖がってるんだ」
「まさか、またか…」オズワルドは考え込むように言葉を漏らした。どうやらこれは単なる偶然ではなく、学園で続いている謎の事件の一環のようだ。
「とにかく、私が現場に急行しなければならない。アレン、リナ、君たちも気をつけろ。君たちが巻き込まれる可能性もゼロではない」
オズワルドはそう言い残し、急いでその場を離れた。アレンとリナはその場に残され、何とも言えない緊張感に包まれていた。
「失踪事件か…」
アレンは不安げに呟いた。異世界に来たばかりの自分に、このような事件に巻き込まれる可能性があるとは思ってもみなかった。
リナは彼の肩を軽く叩いて、明るい表情で言った。「大丈夫だよ、アレン!私たちが気をつけていれば、きっと何とかなるさ!」
彼女の楽観的な言葉が、アレンの緊張を少し和らげた。とはいえ、事件のことが頭を離れない。学園で起きているこの異変が、今後の生活にどう影響するのか――不安と期待が交錯する中、アレンは自分の力を試す時が来るのを感じ取っていた。
アレンはその後、リナと共に再び学園の施設を巡った。失踪事件のことが頭に残りつつも、彼は魔法学園での基礎訓練について話を続けた。
「それにしても、この学園って本当にいろんな場所があるんだな。魔法の訓練場もだけど、他にもたくさんの施設があるみたいだし」
「そうだね!」リナは笑顔で応じた。「この学園は大きいだけじゃなくて、魔法を学ぶための設備が整ってるんだ。たとえば、地下には禁断の魔法に関する研究が行われている場所もあるって噂だしね」
「禁断の魔法…?」
アレンはその言葉に引っかかった。禁断と呼ばれるからには、それは普通の魔法とは違う危険な力だということだろう。だが、なぜそのようなものが学園の中に存在しているのか。
「詳しいことは私も分からないけどね。でも、あまり深入りしないほうがいいと思うよ。そういうところに興味を持つと、きっと面倒なことに巻き込まれるから」
リナは冗談めかしながらそう言ったが、アレンはその言葉の裏に何か大きな秘密が隠されているような気がしてならなかった。
「それにしても…」
リナはふと真剣な表情になり、周りを見回しながら言葉を続けた。
「この学園、何かが変わり始めてる気がするんだ。失踪事件が増えてるし、魔法の流れもどこかおかしい。私たちの知らないところで、何かが動いてるんじゃないかなって」
その言葉は、アレンの胸に重く響いた。彼もこの学園に来てから、何か異質なものを感じていた。学園全体に漂う不穏な空気。それがただの不安からくるものではないと、次第に確信を持ち始めた。
「アレン、私たちでこの学園のこと、もっと知っていこうよ!絶対に何かあるはずだから」
リナの言葉に、アレンは頷いた。彼の中で、次第に学園の謎に対する好奇心が強くなっていくのを感じていた。
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