ソフト指しの闇

第6話

真田は、心の中で抱えていた葛藤を整理しようと決意した。自分を取り戻すためには、将棋に向き合う勇気を持つ必要があった。彼は不登校の日々を過ごす中で、やはり将棋が好きだという気持ちが消えていないことに気づいた。仲間との絆が壊れたとしても、自分のスタイルを否定される理由にはならない。

ある晴れた日、彼は久しぶりに部屋を出て外に出かけることにした。近所の公園に向かい、静かな場所を見つけて腰を下ろした。周囲には子供たちが遊ぶ声が響いているが、彼の心の中には不安が渦巻いていた。

「やっぱり、ソフト指しをするのは悪いことなのか？」真田は自問自答した。しかし、思い返せば彼がそのスタイルで得た勝利や喜びは、彼の中で確かなものだった。自分の道を歩むことが、必ずしも他人に否定されることではないと信じたかった。

その瞬間、彼はスマートフォンを取り出し、AI将棋ソフトを開いた。指先で画面を操作し、過去に対局した局面を振り返ってみる。いくつかの試合を観戦しながら、彼はその時の興奮や喜びを思い出し、少しずつ心が温まっていくのを感じた。

「そうだ、これが俺の将棋なんだ。」真田は心に再確認する。自分のスタイルを受け入れ、楽しむことが大切だということを思い出したのだ。

その後、彼は公園で過ごす時間を増やし、少しずつ心の整理をしていった。将棋に対する情熱が再燃する中、彼は仲間たちとの関係を再構築する方法を考え始めた。

数日後、彼は将棋部の活動に参加することを決めた。部員たちが集まる場所に足を運ぶことにしたのだ。心の中には不安があったが、同時に自分の気持ちを伝えたいという強い意志もあった。

部室に入ると、仲間たちの目が彼に集まった。少し緊張しながらも、真田は勇気を振り絞った。「みんな、俺がやっていたことについて話したいんだ。」

部員たちの表情は戸惑いを見せた。彼は深呼吸し、続けた。「俺はAIを使って将棋を指していた。最初はズルだと思われたかもしれないけど、これは俺にとっての新しいスタイルなんだ。」

後輩の山田が眉をひそめたが、真田はその目を見つめ返した。「もちろん、俺がやっていたことには賛否があると思う。でも、俺はこのスタイルで将棋を楽しんでいた。勝つことが全てじゃない、楽しむことが大事なんだ。」

真田の言葉には、彼自身の苦悩や思いが込められていた。後輩たちはその言葉を黙って聞き入った。

「俺は今も将棋が好きだ。だから、もう一度一緒に楽しみたいと思っている。」彼は心からの思いを伝えた。

沈黙が続いたが、やがて部長の高橋が口を開いた。「真田、そう言ってくれてありがとう。俺たちも誤解していた部分があったかもしれない。君が好きな将棋を楽しむ姿を見たいと思ってる。」

その言葉に、真田の心は少し軽くなった。仲間たちも少しずつ彼の思いを理解し始めているようだった。

その後、部室は和やかな雰囲気に包まれ、再び将棋の話題で盛り上がった。真田は少しずつ心の壁を取り払うことができた。仲間との絆が再構築される中で、彼自身も自分のスタイルを受け入れ、将棋を楽しむことができるようになっていた。

時間が経つにつれ、彼は再び将棋に没頭し、AIを使ったスタイルを仲間たちと共に楽しむことができるようになった。これからも、自分を貫くことを忘れずに、新しい将棋の世界を楽しんでいこうと心に誓った。

「これからは、みんなと一緒に楽しもう。」真田は新たな決意を胸に、将棋部の活動に参加していくことを決めた。彼の心には、かつて失ったはずの温かい絆が戻ってきていた真田圭一は、将棋部での会話を経て少しずつ心が軽くなったと感じていた。しかし、彼の周囲の雰囲気は依然として冷たく、後輩たちの態度には変化が見られなかった。言葉では賛成してくれた高橋や他の部員たちも、彼がAIを使ったソフト指しをすることを心の底では軽蔑しているように感じていた。

特に山田の態度は顕著だった。彼は真田に対してあからさまに距離を置き、会話もほとんどしなくなった。「やっぱり、あいつはズルをしてるからな」と、部の中で耳にすることも増えていた。後輩たちが真田を避ける様子は、彼の心に深い傷を残した。

ある日、練習の後に部員たちが集まる中、真田は一人で対局をしていた。彼の目の前にある将棋盤には、思い描くような美しい局面が広がっていたが、心の中の不安がそれを遮っていた。周囲から聞こえる囁きや笑い声が、彼の心をさらに重くさせていた。

「真田、またソフト指しの話してるの？」山田の声が耳に入った。彼の言葉には冷たい響きがあった。真田はその声に振り向くことができず、ただ沈黙を保った。

部室を出た後、真田は一人で公園に向かった。静かな場所で、心の整理をしようとしたが、思い出されるのは後輩たちの軽蔑の眼差しだった。「俺は本当に間違っているのか？」その疑問が頭の中でぐるぐると回っていた。

時間が経つにつれ、真田の心は孤独感で満たされていった。将棋を愛しているはずなのに、周囲からの避けられるような視線が彼の心を締め付ける。彼は自分が楽しむはずの将棋が、今では苦痛に感じるようになっていた。

数週間が過ぎ、彼の心の負担はますます重くなっていた。部室に戻ることが憚られるようになり、練習も徐々に遠ざかっていった。仲間たちの中にいることで感じる孤独は、彼にとって耐え難いものだった。

ある日の練習後、ついに真田は決意を固めた。「もう、やめよう。」彼は自分が何を求めているのか、再び迷っていた。ソフト指しを楽しむことができなければ、将棋を指す意味はない。周囲の人間が自分を受け入れてくれないのなら、もうここにはいられない。

その夜、彼はスマートフォンを見つめながら涙を流した。「本当に好きだったのに、どうしてこんなことになったのか……」将棋を指す楽しさが、今や遠い過去の思い出のように感じられた。

そして、真田は一つの決断を下した。自分のスタイルを貫くことはできても、仲間との絆を壊してまで続けるべきことではない。彼は将棋部を離れ、しばらく一人で自分の道を探すことにした。

新たな道を探すために、彼は部室を去ることを選んだ。その瞬間、心の中にある一抹の寂しさがよぎったが、それでも彼にはもう選択肢がなかった。将棋を通じて得た友情が消え去った以上、自分の道を歩むしかないのだと、彼は思った。

心の中で葛藤を抱えつつ、真田は新たな一歩を踏み出すことにした。これからの将棋人生をどうするか、じっくりと考えながら、自分自身を見つめ直す旅に出ることを決意した。