第7話
真田は、将棋部を離れた後、孤独な日々を過ごすことになった。公園での一人対局や、AIソフトを使った練習は続けたものの、周囲との交流がない中で心の中はどんどん空虚になっていった。彼にとって、将棋はもはや仲間との絆を感じる手段ではなくなっていた。
自宅で一人、盤に向かう時間が長くなるにつれ、真田は自分自身に問いかけるようになった。「本当にこれで良いのか?」彼は心の奥底で、仲間たちと過ごした日々がいかに大切だったかを思い知らされていた。
ある日の午後、真田は公園で過ごしていると、一人の少年が将棋盤を持って近づいてきた。「こんにちは、将棋やってますか?」その少年の目は輝いていた。
「うん、少しだけ」と答えた真田。少年は興味津々で、「一緒にやりませんか?」と誘ってきた。
真田は一瞬戸惑ったが、その少年の純粋な目に心を打たれ、承諾した。二人で盤を挟み、真田は久しぶりに対局する楽しさを感じた。相手の少年は初心者だったが、一生懸命に指す姿が彼の心に新たな光をもたらした。
対局が進む中で、少年の真剣な表情を見ていると、真田は次第に心が解きほぐされていくのを感じた。彼の中で「将棋の楽しさ」が再び蘇ってきたのだ。勝ち負けではなく、共に楽しむことができるのだと。
その後も何度か対局を重ねるうちに、真田は少年との交流を深めていった。少年の名前は直樹で、将棋のことを心から楽しんでいることが伝わってきた。彼は無邪気に「将棋が好き!もっと強くなりたい!」と言い続けた。
その言葉に、真田は思わず自分の過去を思い出した。「俺も、そうだったな」と心の中でつぶやく。自分が将棋を愛し、仲間と共に楽しんでいた頃の思い出が彼を支えた。
次第に、真田は直樹との対局を通じて少しずつ元気を取り戻していった。将棋の楽しさを思い出したことで、彼はまた盤に向かう気持ちが芽生え始めた。
数週間後、彼は直樹に自分の経験を話すことにした。「俺は昔、将棋を通じて仲間と絆を感じていたけど、今は少し違う道を歩いている。でも、また楽しむことができているのは君のおかげだ。」
直樹は目を輝かせ、「それなら、もっと一緒に将棋をしよう!楽しいことが一番大事だもん!」と笑顔で返した。その言葉に、真田は胸が熱くなった。彼は自分の選んだ道が間違っていなかったことを確信した。
その後、真田は将棋部での経験を活かしながら、直樹と共に将棋を指し続けた。AIソフトを使った指導も行い、彼に楽しさを伝えながら成長を手助けしていった。真田は自分が再び将棋を愛する姿を取り戻し、仲間との絆の大切さを再認識した。
やがて、直樹は少しずつ成長し、真田との対局を通じて強くなっていった。彼の楽しむ姿は、真田にとっても大きな喜びとなった。孤独感は薄れ、将棋を通じた新しい友情が芽生えていくのを感じた。
そして、真田は決意した。将棋部に戻ることを。自分が直樹から学んだこと、そして将棋の楽しさを再確認した今、もう一度仲間たちと共に過ごしたいと思ったのだ。
「今度こそ、俺のスタイルを貫きながら、仲間と楽しむことができる」と心に誓い、真田は新たな一歩を踏み出すことにした。彼は勇気を持って将棋部に戻り、今度は自分の信じる道を歩き続ける覚悟を決めた真田圭一は、将棋部に戻るための準備を始めた。心の中で何度も葛藤を繰り返しながらも、直樹との出会いが彼に勇気を与えてくれた。将棋を楽しむことの大切さ、仲間との絆の意味を再認識した今、もう一度部に戻りたいという気持ちが強くなったのだ。
ある日の午後、真田は部室の前に立ち、深呼吸した。「これでいいんだ」と自分に言い聞かせながら、ドアをノックした。中から部員たちの声が聞こえる。ドアを開けると、視線が一斉に彼に向けられた。
「真田!」と部長の高橋が明るい声で呼びかけてくれた。周りの部員たちの表情は驚きと戸惑いが入り混じっていた。真田は少し緊張しながらも、心の中で決めたことを伝えようと口を開いた。
「みんな、ただいま!また将棋を楽しみに来たんだ。」その言葉に、部室は一瞬静まり返った。しかし、次第に高橋がにっこり笑い、他の部員たちも穏やかな表情を取り戻した。
「おかえり、真田!待ってたよ!」高橋の言葉に、周囲からも「良かった、戻ってきてくれた!」という声が聞こえ、真田はほっと胸を撫で下ろした。
しかし、彼の心には依然として不安が残っていた。後輩たち、特に山田の反応が気になった。果たして彼は、自分を受け入れてくれるのだろうか。
その日の練習が始まると、部員たちは真田を囲んで将棋の話題を楽しんだ。彼は久しぶりに感じるその温かさに心がほぐれていくのを感じた。しかし、山田は相変わらず距離を置いていた。練習中、目が合うことはあっても、何も言葉を交わすことはなかった。
数日後、練習中のことだった。山田が対局している姿を見て、真田は思い切って声をかけた。「山田、久しぶりに一局指さない?」彼の声には緊張がにじんでいた。
山田は少し驚いたように振り返り、一瞬の沈黙が流れた。やがて、彼は冷淡な表情で答えた。「あんたが戻ってきたのはいいけど、まだ許せないことがある。」その言葉は真田の心に重く響いた。
「俺は自分のやり方を選んだだけだ。君たちを軽蔑したつもりはないんだ」と真田は必死に反論したが、山田の目は冷たく、何も返ってこなかった。彼の心は再び暗い影に包まれていく。
その後も、部員たちとの関係は少しずつ良くなっていったものの、山田との距離は縮まらなかった。真田は毎日の練習を通じて、少しずつ心の傷を癒しながらも、山田の視線が常に気になる存在だった。
ある日、練習後に高橋が声をかけてきた。「真田、最近の君のプレイが良くなってると思う。ソフト指しを活かしたスタイル、面白いよ。」その言葉に、他の部員たちも頷いた。
「でも、山田のことが心配だ。彼はまだ納得していないみたいだから、何か気にしているかもしれない」と高橋が続けた。真田はその言葉に心を痛めた。
「彼に何か言ってみようかな」と真田は自分に言い聞かせ、再度山田に話しかける決意をした。彼は自分の思いを伝えなければ、前に進むことができないと感じたのだ。
次の日、真田は山田を呼び出すことにした。「少し話があるんだ。」彼は心を落ち着け、率直に話すことを決めた。
「俺がソフト指しを選んだ理由や、その楽しさを君に理解してほしいと思っている。仲間として、将棋を楽しみたいんだ。」真田の声は緊張で震えていたが、真剣な気持ちが伝わったのか、山田は少しだけ表情を和らげた。
「俺は、あんたのことを軽蔑しているわけじゃない。ただ、裏切られたような気持ちがあったから……」山田の言葉には、自身の葛藤が滲んでいた。
「わかるよ、でも俺はこれからも将棋を楽しみたい。君たちと一緒に、楽しい時間を過ごしたいんだ」と真田は続けた。
その言葉に、山田はしばらく沈黙した後、「俺も、将棋が好きだから、もう一度考え直すよ」と答えた。彼の口元には微かに笑みが浮かんでいた。
少しずつではあるが、真田は仲間たちとの絆を取り戻していけるかもしれないという希望が心の中に芽生えてきた。山田との会話をきっかけに、彼は再び仲間と共に将棋を楽しむ未来を信じることができるようになっていた。
この新たな一歩を踏み出すことで、真田は自分のスタイルを貫きながら、仲間との絆を深めていく道を選んだ。将棋を通じての友情が、彼にとって最も大切なものになっていくのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます