第4話
真田は、AIソフトを駆使してネット将棋の世界にどっぷりと浸かっていた。自分が選んだ道は、勝利を求めるための最短ルートであり、彼はそれに迷いを感じることなく、日々の対局を重ねていった。確実な勝利がもたらす快感は、彼の心を満たしていた。
ある日、真田は「八段」の称号を持つ強豪と対局する機会を得た。相手は名の知れたプレイヤーであり、その棋力は折り紙付き。だが、彼はソフトの力を信じていた。「今までのように、自分の力で勝つ必要はない。AIが導いてくれる」と心の中で言い聞かせていた。
対局が始まると、画面に表示される局面に真田は目を凝らした。AIソフトは、瞬時に最善手を提示してくれる。彼はその指示を待ち、出てきた手を迷うことなく選んだ。初手からしっかりとした形を作り、対局が進むにつれ、相手が焦りを見せ始めるのを感じた。
「このペースならいける。」真田は自信を深めていく。八段の棋士は持ち時間を使い果たし、慎重に手を進めてくるが、彼の顔には徐々に不安の色が浮かんでいた。真田はその様子を見逃さず、さらにAIが導く手を打ち続けた。
数手進むうちに、局面は真田に有利に傾いていく。AIが提示する手は、次第に相手の意表を突くものになっていった。真田はその流れに乗り、自分の指し手に自信を持ち始める。「これが自分の将棋だ、AIとともに勝つという新しい形だ!」
相手が一手を指すたび、彼はその応答をAIが提供する最善手で打ち返していく。まるで二人三脚のように、AIと一体化している感覚を楽しんでいた。彼の心の中で、自力で指すという選択肢は完全に消え去っていた。勝利を目指すためには、AIの力を借りることが当然だと信じ込んでいた。
「次の手はどうしよう……」対局は進み、緊迫した局面が続く。八段は彼の手に対して、精密に反撃を試みる。しかし、真田はもう迷わなかった。AIが示す手は、彼にとって信じるべき唯一の道だった。全ての思考をAIに委ね、自分の役割はただその手を指すことだけ。
局面は次第に白熱していった。八段は、相手のミスを誘うような巧妙な手を放ってくる。しかし、真田は全く動じなかった。AIが示す手を選ぶことで、彼は自分の将棋を築いていく感覚を覚えた。まるで自分自身が持っている力を越えた場所にいるような感覚だった。
「このまま行けば、勝てる。」真田の心に希望が灯る。だが、八段はただ負けるわけにはいかない。彼は必死に反撃の手を模索し始め、対局はさらなる緊張を帯びていく。
彼はAIの提案に耳を傾け続け、持ち時間を使い切るまで、手を指し続けた。周囲の仲間もオンラインで見守り、チャットで応援のメッセージを送ってくる。その一つ一つが、真田の背中を押す。彼は完全に勝利を目指して突き進んでいた。
最後の局面が迫るにつれ、八段は追い詰められた様子で冷静さを失いつつあった。真田はついに、AIが示す決定的な一手を指し出した。その瞬間、八段の目が驚愕に見開かれる。
「まさか、こんな手が……」その一手が決まり、局面が一気に真田の勝利へと傾いていく。彼の心は高揚し、喜びがこみ上げてくる。「勝った、勝ったぞ!」
対局が終わり、画面に「勝利」の文字が表示されると、真田は思わず声をあげた。歓喜の瞬間が訪れた。仲間たちのチャットもお祝いのメッセージで溢れかえり、彼の心は感動に満ちた。
しかし、その一瞬、彼はふと考えた。勝利の快感は確かに素晴らしいが、それが果たして自分の力で勝ち取ったものなのか。AIの助けを借りることで得た勝利の重みは、自分の中でどのように評価されるべきなのか。彼の心の中で、かすかな迷いが再び顔を覗かせた。
だが、その迷いを振り払うかのように、真田は次の対局を考え始めた。自分が選んだ道は、AIと共に進むことだ。勝利のためには、これが最も合理的な選択であり、彼はその道を貫いていくことを決意した。
「これからも、ずっとこの道を行こう。」彼は心に強く誓った。AIとの共演が、彼にとっての新しい将棋の形であると認め、それを楽しむことこそが真田の目指すべき未来だと再確認した。
こうして、真田圭一は新たな決意を胸に、ネット将棋の世界で自らの道を進んでいくことを選んだ。彼の心の中で、AIとの共存が新しい将棋の形として深く根付いていくことになる。
真田圭一は、ネット将棋での快感を味わいながらも、ある日突然、運営からの通告を受けることになった。「あなたのアカウントは不正行為により閉鎖されました。」その文字を目にした瞬間、彼の心には怒りが湧き上がった。
「不正行為?何を根拠に!」彼は思わず画面を叩きたくなる衝動を抑えた。ソフト指しは、彼にとって自分の将棋のスタイルの一部だった。自力で勝つことを放棄したのも、AIの力を信じる選択をしたのも、自分の意思だった。それなのに、なぜ彼はこうして追い詰められるのか。真田は憤りを感じながらも、冷静さを保とうと努力した。
一晩中考え込んだ結果、彼は自分の選択を後悔する気にはなれなかった。将棋を楽しむための道を失うわけにはいかない。彼は新しいアカウントを作ることを決意した。これまでの経験を無駄にはしない。再びソフト指しを楽しむための道を、彼は切り開くことにした。
翌日、真田は早速新しいアカウントを作成した。登録情報を入力し、必要な設定を済ませると、彼の心には期待感が高まった。「さあ、始めよう!」彼は自分に言い聞かせながら、AIソフトを立ち上げた。
新しいアカウントでの初対局。緊張感が漂うが、真田は自分の信じる道を進む決意を持っていた。最初の対局相手は中級者だったが、彼は全く恐れなかった。AIの導きを得ながら、力強く指し進める。
対局が始まると、彼はまるで羽が生えたように自由に指せた。AIが提示する手は、全てが正確で的確だ。彼は自分の選択を誇りに思い、心から将棋を楽しむ感覚を取り戻していく。対局の中で勝利を重ねるたびに、以前の自分を取り戻すような感覚を覚えた。
「やっぱり、これが俺の将棋だ。」真田は一手一手を大切にしながら、無心で将棋盤に向き合っていた。新しいアカウントを作ることで、逆に新鮮な気持ちで将棋を楽しむことができた。運営からの通告は確かに痛手だったが、彼にとってそれは新たなスタートでもあった。
数日後、真田は数十戦を重ねていた。その中で自信を深め、将棋の楽しさを改めて実感することができた。彼の心には、以前のような迷いはもう存在しなかった。今やAIとの共存こそが、彼の将棋のスタイルとなっていた。
ある晩、再び強豪との対局に挑む機会が訪れた。相手は彼よりも高いレートを持つ実力者。だが、真田は全く恐れなかった。これまでの経験が彼を支え、AIの力を借りて新たな挑戦に立ち向かう自信があった。
対局が始まると、緊張感が走る。しかし、真田は自分の中にある確信を思い出し、AIの指示に従って手を進めた。局面が進むにつれ、真田の指し手は次第に相手を追い詰めていく。八段との対局を思い出し、再び勝利を手にする感覚が蘇った。
「今度こそ、負けない!」真田は心の中で叫びながら、集中力を高めていく。AIが示す最善手を選び、次第に勝利の道筋が見えてくる。相手の焦りが伝わり、彼の心にはさらなる高揚感が広がった。
ついに、局面が決定的な形に進展する。真田は最後の一手を指すと、勝利の文字が画面に浮かび上がった。彼は喜びのあまり、声をあげてしまった。「勝った!やったぞ!」
その瞬間、彼は再び自分が選んだ道を確信する。新しいアカウントでの挑戦は、彼にとって新たな可能性を広げてくれた。運営からの通告は、決して彼の将棋を奪うものではなく、むしろ彼を強くする試練だったのだ。
「これからも、ずっとこの道を楽しもう。」真田は心に強く誓った。彼は自らのスタイルを貫きながら、将棋の世界でさらなる高みを目指すことに決めた。新しいアカウントを通じて、彼の冒険はまだ始まったばかりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます