ソフト指しの闇

第3話

真田は、将棋部での充実した日々を送っていたが、心の奥には一抹の迷いがあった。仲間との対局や自分のスタイルを見つける楽しさを味わいながらも、あの夜のソフト指しの快感が忘れられずにいた。AIに頼ることで得られる勝利の快感は、どこか心を満たしていたのだ。

ある晩、真田は一人で将棋盤を前に座り、過去の対局を振り返っていた。自分が勝利を収めた試合、思い描いた局面を実現したときの高揚感。それらの記憶が彼を襲う。やはりあの瞬間の爽快感は、他のどんな経験にも代えがたいものだった。

「どうしても、ソフト指しの感覚が忘れられない……」真田はため息をついた。彼の心の中で、ソフトに頼ることへの誘惑がくすぶっていた。確かに仲間との対局は楽しい。しかし、あの一瞬で得られる自信と満足感が恋しかった。

翌日、彼は友人の山田とカフェで話をしていた。山田は将棋部のメンバーであり、真田の将棋の成長を見守ってきた。彼に心の内を打ち明けると、山田は真剣な眼差しで彼を見つめた。

「真田、ソフト指しのことが気になっているなら、素直に自分に正直になればいいと思うよ。将棋を楽しむための道は、いくつかあっていいんじゃない？」

その言葉が真田の心に響いた。確かに、勝つことだけが将棋の楽しみではない。しかし、彼にとってソフト指しは特別な感覚を伴っていた。勝利を求める姿勢が、自分を成長させる源になっているのではないかとも感じていた。

数日後、真田は再び自宅でAIソフトを起動した。心の中で葛藤しながらも、彼は過去の快感を再び体験することを決意した。画面が立ち上がり、彼の目の前には馴染みのあるインターフェースが現れる。指先が震え、期待と不安が交錯する。

「これが俺の将棋だ。」真田は自分に言い聞かせた。彼は対局相手を選び、ソフトの指示に従って手を指していく。勝利の瞬間、彼は思わず声をあげた。AIが導いた最善手で、対局相手を圧倒する。その瞬間、あの独特の高揚感が彼を包んだ。

「やっぱり、この感覚は忘れられない！」真田は笑顔になった。彼はソフトの助けを借りながらも、何か大切なものを失っている気がしたが、勝利の喜びは彼に新たな活力を与えていた。まるで自分がもう一人の自分になったかのような錯覚を覚える。

その夜、真田は一晩中対局を繰り返した。勝ち続けることで、彼は心の中で次第に確信を持っていく。「これからは、一生ソフト指しをしていこう。」彼は自分の選んだ道に迷わず進むことを決意した。

それでも、心の中の小さな声が囁く。「本当にこれでいいのか？」将棋は楽しむためのものだと、何度も自分に言い聞かせる。しかし、ソフトに頼っている自分を否定する気持ちも消えなかった。

対局の合間に、彼は再び仲間との交流を思い出す。部室での楽しい時間、仲間との競い合い。彼はそれらの瞬間も大切に思っていた。だが、勝利の快感は何物にも代えがたい。真田は、自分が選んだ道が正しいのか、迷いながらも前に進むことにした。

「俺の選択は、間違っていないはずだ。」彼はそう自分に言い聞かせる。しかし、その言葉の裏には、揺れ動く心の奥底が潜んでいた。ソフト指しと自分の将棋。二つの世界の間で彼は揺れ続けるが、同時にその迷いが彼をさらに強くすることを期待していた。

真田の心には、ソフト指しを続ける決意が固まったものの、その先に何が待っているのか、まだ見えていなかった。彼の選んだ道が、果たしてどんな未来をもたらすのか。それを知るためには、まず一歩を踏み出すことが必要だった。

真田圭一は、ソフト指しの快感に浸りながらも、心のどこかで葛藤を抱えていた。毎晩のようにAIを使っての対局を続け、勝利を収めるたびに高揚感を味わっていたが、その裏にある自分の選択が本当に正しいのかという疑念も膨らんでいった。

ある日、彼は将棋部の練習で久しぶりに先輩の田中と対局することになった。田中は真田の成長を認めつつも、「お前、本当に強くなったな」と声をかけてくれるが、その言葉の裏には「でも、どうしてそれを自分の力で勝ち取らないんだ？」という問いかけのようなものも感じていた。

対局が始まり、真田は手を指すたびに自分の心の動きに敏感になっていった。AIに頼らずに勝ったあの感覚、そして今、自らの手で指していることの意味が交錯する。指し手が進むにつれ、田中の鋭い攻撃に真田は押され始めた。自分の思考を信じることが難しくなってきた。

「次の手、どうする？」田中が問いかける。

その瞬間、真田は一瞬だけ考え込んだ。もしAIに頼ることができたなら、今の局面をひっくり返す手をすぐに見つけられるはずだった。しかし、彼は心の中で自分に言い聞かせた。「今は自分の力で勝負しなければならない。」

真田は直感を信じて手を指した。その結果、彼は見事に田中の攻撃を防ぎ、逆襲のチャンスを掴んだ。周囲の仲間たちも驚く表情で見守る。真田は勝ちの目を感じ、心が躍る。

「やった、これが自分の将棋だ！」その瞬間、彼は自分の手で勝ち取った喜びに浸った。田中も納得の表情を浮かべ、「いい手だった」と称賛してくれた。

対局が終わり、真田は自分の勝利を喜びながらも、心の中にはあのソフト指しの快感がまだ残っていた。再び彼は思った。「やっぱり、あの感覚が忘れられない。」

その晩、彼は再びAIソフトを立ち上げた。心の葛藤を抱えつつも、ソフトの力を借りての勝利は、彼にとって特別なものだった。手を動かしながら、勝利の興奮に酔いしれる。しかし、勝つことだけが将棋の楽しみではないということも理解していた。

「このままでいいのか？本当にこれが俺の目指す道なのか？」彼は自問自答を繰り返す。

次の日、真田は将棋部の練習に参加した。仲間たちとの対局を通じて、自分の成長を実感していたが、同時にソフトに頼る快感も忘れられなかった。対局を重ねるうちに、彼は自分の道を見つけるためにどちらかを選ばなければならないという結論に達した。

その晩、真田は静かな部屋で将棋盤を前に座った。過去の対局を振り返り、仲間との交流の大切さを再確認しながら、彼は再びAIソフトを起動した。自分の心の中で葛藤しながらも、勝利を求める欲望が彼を支配する。

「俺はやっぱり、ソフト指しを続けていく。」その決意が彼の中で固まっていく。勝つためには、AIの力を借りることが一番の近道だと彼は信じるようになっていた。

だが、その直後、彼の心の奥底から小さな声が響いた。「本当にそれが自分の将棋なのか？」彼はその声に耳を傾けたが、勝利の快感が彼を包み込み、再び選択を覆すことができなかった。

真田は、自分の選んだ道に確信を持ちたいと願っていた。彼にとってソフト指しは、単なる勝利の手段ではなく、自己表現の一つでもあった。それでも、心の中に存在する迷いを振り切ることはできず、彼はその選択を続けていくことに決めた。

こうして真田は、二つの道の間で揺れながらも、ソフト指しを選ぶことにした。それが彼の選んだ将棋のスタイルであり、勝利を求める彼の生き方そのものであった。彼はこの選択が、どんな未来をもたらすのか、まだ知らなかった。