第7話: 「再会の舞台裏、秘めた恋心」
新学期初日の朝、桜花学園はまるで蜂の巣をつついたかのような活気に溢れていた。久しぶりに再会した友人たちの歓声が、校舎全体に響き渡る。
しかし、その喧騒の中で、ただ一人、千紗の心はざわめいていた。鷹宮くんと再会する……。その想いが、彼女の胸を高鳴らせる。
教室に入ると、すぐに藤堂美咲が千紗に飛びついてきた。
「千紗ちゃーん! 久しぶり~! 元気だった?」
千紗は優しく微笑んだ。
「ええ、元気よ。美咲はどう? 楽しい夏休みだった?」
「うん! 海にも行ったし、花火大会も最高だったの! それで、千紗ちゃんは? 鷹宮くんと連絡とか、してたの?」
美咲の質問に、千紗は一瞬動揺した。頬が熱くなるのを感じる。
「え? あ、ええと……手紙を、少し」
「きゃー! やっぱり! で、どうなの? 進展は?」
千紗は困惑した表情を浮かべた。進展? 何の? 彼女自身、自分の感情をまだ明確に理解できていない。
「別に、何も……」
その時、教室に遥斗が入ってきた。千紗の心臓が大きく跳ねる。夏の間に、彼はさらに背が伸びたように見えた。髪型も少し変わっている。洗練された雰囲気が漂っていた。
遥斗と目が合った瞬間、千紗は思わず息を呑んだ。彼の瞳に、懐かしさと何か新しいものが宿っているように感じた。
「春原さん、お久しぶり」
遥斗の声は、いつもと変わらず落ち着いていた。しかし、その口調には微かな温かさが感じられた。
「鷹宮くん……お久しぶり」
千紗の声は少し震えていた。二人の間に、言葉では表現できない空気が流れる。
美咲はその様子を見て、にやりと笑った。
「あら、私そろそろ行かなきゃ。またねー」
美咲は意味ありげな表情で去っていった。取り残された二人は、どう会話を続ければいいのか戸惑っていた。
「えっと……数学オリンピック、どうだった?」
千紗が勇気を出して尋ねた。遥斗の表情が少し明るくなる。
「ああ、予選は通過したよ。春原さんの文学コンテストは?」
「私も……一次審査を通過したの」
二人は互いの健闘を称え合った。しかし、その裏で、互いへの想いが複雑に絡み合っていた。
授業が始まり、二人は自分の席に着いた。しかし、千紗の心は落ち着かなかった。彼女は、自分の中に芽生えた感情の正体を必死に探ろうとしていた。それは友情? それとも……。
一方、遥斗も自分の気持ちに戸惑っていた。夏休みの間、彼は春原さんのことを何度も思い出していた。彼女の優しい笑顔、繊細な言葉遣い、そして彼女が紡ぎ出す詩の美しさ。それらが、彼の心に深く刻まれていた。
授業中、二人は何度か視線を交わした。その度に、互いの頬が赤くなる。周りのクラスメイトたちは、そんな二人の様子に気づき始めていた。
昼休み、遥斗は勇気を出して千紗に声をかけた。
「春原さん、よかったら一緒に図書館に行かない?」
千紗の心臓が大きく跳ねた。
「うん、行きたい」
図書館に向かう途中、二人は互いの夏休みの出来事を語り合った。遥斗は数学の問題に没頭した日々を、千紗は詩作に励んだ時間を語る。しかし、その会話の裏で、二人とも同じことを考えていた。
「君のことを、ずっと考えていた」
その言葉は、まだ口に出せない。しかし、二人の心の中では、その思いが大きく膨らんでいた。
図書館に着くと、二人は無言で本棚の間を歩いた。そして、ふと「風立ちぬ」が置かれている棚の前で足を止めた。
「春原さん……」
「鷹宮くん……」
二人の指が、同じ本に伸びる。その瞬間、指先が触れ合った。電気が走ったような感覚に、二人は驚いて手を引っ込めた。
「ご、ごめん」
「い、いや、僕こそ」
二人は顔を真っ赤にしながら、互いを見つめ合った。その瞬間、彼らの心の中で何かが大きく動いた。それは、まだ名付けられない、しかし確かに存在する感情だった。
その日の夜、千紗は日記にこう綴った。
『今日、鷹宮くんと再会した。たった数週間の別れなのに、こんなにも胸が高鳴るなんて……。私の中で、何かが大きく変わろうとしている。それが何なのか、まだはっきりとは分からない。でも、きっと大切な何かだと感じている。これから先、鷹宮くんとどんな時間を過ごすのだろう。少し怖いけど、でもとてもワクワクする』
窓の外では、夏の名残の虫の音が聞こえていた。その音色に、千紗の胸の高鳴りが重なる。新学期の始まりは、彼女の人生の新しい章の幕開けでもあった。
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