第3話: 「才能交差、プロジェクトは恋の始まり」

 梅雨入り間近の蒸し暑い日、1年A組に担任の藤原先生が特別な発表をした。


「今日から、二人一組でプロジェクト学習を始めます。テーマは『未来の教育』です。パートナーは……」


 千紗は緊張して聞いていた。誰とペアになるのだろう。


「春原千紗さんと……鷹宮遥斗くん」


 千紗は思わず息を呑んだ。隣の席で、遥斗もわずかに体を強張らせた。


 放課後、二人は図書館の一角に集まった。テーブルを挟んで向かい合い、気まずい沈黙が流れる。


「えっと……」

「あの……」


 二人が同時に口を開き、そして黙り込む。千紗は小さく笑い、遥斗も少し表情を緩めた。


「どんなテーマにしようか」


 遥斗が静かに切り出した。千紗は考え込んだ。


「そうですね……私たちの世代が直面する課題を考えてみるのはどうでしょう?」


「具体的には?」


「例えば、AIと人間の共存とか」


 遥斗の目が輝いた。


「それ、面白いね。僕、プログラミングに興味があるんだ」


「え! 私、知りませんでした」


 千紗は驚きとともに、遥斗の新たな一面を知る喜びを感じた。


「春原さんは? 得意なことは?」


「私は……文章を書くのが好きです」


「じゃあ、僕がデータ分析とプログラミングの部分を担当して、春原さんが報告書をまとめるのはどうかな」


 千紗は頷いた。二人の才能が合わさることで、きっと素晴らしいプロジェクトになるはずだ。


 その日から、二人は放課後を図書館で過ごすようになった。最初は硬かった雰囲気も、日を追うごとに和らいでいく。


 ある日、遥斗がプログラミングの説明をしていると、千紗は思わず感嘆の声を上げた。


「すごい! 鷹宮くんって天才なんですね」


 遥斗は少し照れたように俯いた。


「そんなことないよ。ただ……好きなことを追求してるだけだ」


「でも、それってすごいことです。私にはまだ、そんな情熱を注げるものが見つからなくて」


 千紗の声に、ほんの少しの寂しさが混じった。遥斗は真剣な眼差しで彼女を見た。


「きっと見つかるよ。春原さんには、人の心を動かす力がある」


「え?」


「君の書く文章を読むと、心が温かくなるんだ。それって、才能だと思う」


 千紗は頬が熱くなるのを感じた。遥斗の言葉が、彼女の心に深く染み込んでいく。


「ありがとう……鷹宮くん」


 二人は目を合わせ、そして微笑んだ。


 プロジェクトは順調に進んでいった。しかし、それ以上に大切なものが、二人の間で芽生え始めていた。それは、お互いを認め合い、高め合う関係。そして、まだ名付けられない、甘く切ない感情。


 その夜、千紗は日記にこう記した。


『鷹宮くんと一緒にいると、私の中に眠っていた何かが少しずつ目覚めていく気がする。これが、「誰か」になっていく過程なのかもしれない。でも同時に、鷹宮くんのそばにいたいという気持ちも強くなっていく。この気持ちは、一体……』


 月明かりに照らされた寮の窓辺で、千紗は自分の心の内を見つめ続けた。

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