episode13 再開

最終日は神戸。


神戸。

あの人が住んでるところだ。


この事はさすがに凛太郎には

言わなかった。

言えなかった。

今更、俺たちを捨てたあの人に

会いに行こうなんて、

正気の沙汰じゃない。


自由行動の時間がやってきた。


母さんが、子供と会うのは

自由だからと住所を書いた紙を

随分と前に渡してくれた。


凛太郎の事は、佳苗に任せた。


俺はいまひとり、あの人の家だろう場所の

まえにいる。


最後に会ったのは小学5年。


あれから、身長も伸び顔も変わっている。

気づくのか。わからなかった。


「西野」


表札にはそう書いてある。

俺の元の苗字は西野だ。黒岩は母親の苗字。


立ち尽くしていると中から人が

出てきた。


やばい!と思いながら塀のところに

隠れる。


「ぱーぱ、今日はなるのお願いきいてくれるよねー」


多分小学生くらいだろう。

女の子の声が聞こえる。


「なる、パパと買い物に行こうか」


あの家じゃ絶対口にしなかった言葉。

優香は、優香はどうなるんだ。

未だにショックで声がでないんだ。


隠れるのをやめて

「すみません、西野和也さんは

あなたですか」


凛太郎に貰ったお守りを握りしめ

話しかけた。


「はい、私ですが…


もしかして、」


「悠介です。」


案外簡単に再会をした。

あの人に。

全てを壊したあの人に。


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