episode12 修学旅行④

悠介が伏見稲荷大社についたころにはもう

16時をすぎていた。


ここだ。


ここに来て、自分はなにをしたかったのだろう。

思い出にでもふけるつもりだったか?

俺たちを捨てたあの人を

思い出して胸が辛くなった。


ひとりだとこんなにも

気分が落ち込んでいく。


凛太郎と来たかった。


凛太郎ときて、記憶を

塗り替えたかった。

でもそんなの自分の我儘だ。

独りよがりな。

そんなことで凛太郎を利用しようなんて

間違ってた。


近くのベンチに座り込んだ。


冷や汗が止まらない。

息苦しい。

上着をきる季節じゃないのに

こんなにも寒い。


身体が震える。


「凛太郎…」


今すぐ凛太郎の笑顔がみたい。

太陽のような明るさで

俺を照らして欲しい。


凛太郎、凛太郎。


「うおーーい!!!」


等々、幻聴まで聞こえてきたみたいだ。


「ゆーーすけえー!!!」


顔を上げると、凛太郎が

走ってきてるのが見えた。

夢じゃない、んだ。

幻聴じゃない。


涙がこぼれ落ちる。


「ごめん!遅くなった!

俺、悠介のことひとりにさせて

ほんとに、ごめん!!!」


「ひとりになったくらいでもう平気だよ」


「うそつくな!」


身長差は結構あるのに

なぜだか凛太郎がすごく

強く、強く、抱きしめるから

一瞬時が止まった。


「な、何してんだよ!離せよ!」


「悠介をひとりにしない!」


「俺が悠介を守る!」


温かい。震えて寒かったさっきとは違う。

ほんと凛太郎には叶わない。


「あ!」


凛太郎がポケットからなにかを

取り出す。


「これ、お揃い!

俺がいない時はこれが

お前をまもってくれるから!」


なんだか、必死な凛太郎を見てると

笑いが込み上げてきた。


「な、なんで笑うんだよ!」


悠介が笑顔でよかった。

凛太郎が来てくれてよかった。


同じ気持ちだったのに

どう伝えればいいのかわからず

確かめられない2人。


ーーー東京


「悠介さん?学校の時間よ?」


俺はあのときのお守りを未だにもっている。

本当に、守られてるような気がして。

高校2年生。


凛太郎の、悠介の、いない日々を。

未だに気持ちは変わらぬまま。

歩いている。


これは少し先の物語り。

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