episode11 修学旅行③

自由行動だ。


「りーんたろっ!なんか

あっちに高杉女子のグループがいるらしーぜ!」


隼人が凛太郎に話しかける。


「高杉女子ってあの女子高の?!

おれら中学だよ?

相手にされないって!」


「それがー高杉女子のひとりの連絡先

GETしたんだぜー!」


「はあー?!お前いつの間に!」


高杉女子。

かなりのお嬢様学校で、

面接ではヴィジュアルやスタイルも

見られるらしい。

と、言うことはかなりの

美人揃いとのことだ。


凛太郎も男だ。

興味があって当たり前だ。

凛太郎だけを見ている俺には

まったく縁のない話。


「あれ」


佳苗が横にいた。

「あのアホなら、隼人と高杉女子の

グループに行ったわよ」


凛太郎が女子と絡む。

そんなこと当たり前じゃないか。

普通がなにかわからないが

モヤモヤとした気持ちになった。

こういう時の佳苗は鋭い。

「悠介、凛太郎があっちのグループ行って

不安でしかたないって顔してるわよ」


「それが、きっと正解なんだよ」


「自由行動どうするのよ」


「伏見稲荷大社に行く。

昔、家族で唯一行ったところなんだ」


行ったところで何になるのだろう。

今更あの父親を思い出したくは無い。

だけれど、行きたい衝動に駆られる。


「佳苗、凛太郎には言わないでくれ」


凛太郎が女子のところにいるのを

見ていたくなかった。

目の前で拷問されているような、

そんな気持ちになった。

母親と優香へのお土産をもって

ひとりで伏見稲荷大社に向かった。


「えー凛太郎くん?って言うの?

可愛い名前~」

髪の毛を触られる。

パシッ!

その瞬間、女の子の手を振り払ってしまった。

なんでだか、触られるのが嫌だった。


「あ、えっと、ごめん俺慣れてくて、ははは」


かわいー♪で、すんでよかったが

なんか楽しくない。

ドキドキもしない。

特に興味も湧かなかった。


「隼人、俺さ」


「悠介ならいないぜ」


「は?」


なんで悠介のことを言われたのか

意味がわからなかった。

てかその前にいないって

どういうことだと思った。

佳苗ちゃんと待ってるかと思ったら

環奈ちゃんとふたりで

おみくじを引いてるのを見た。


居ないってどこ行ったんだよ。

俺には何も言わずにどこ行ったんだよ。


「凛太郎?」


呼んで欲しい声じゃない。


って、俺なに考えてるんだ?

と、思った。

誰に触って欲しくて

誰に名前を呼んで欲しくて

誰と居たかった


全部、悠介だ。


走った。

「佳苗ちゃん!悠介は?!どこいったの?!」


「あなたには言わないでって言われたわ」


俺に言わないで。

なんでそうなるんだ。

ミーハーな気持ちで女子のグループに

話しかけに行って

悠介をひとりにさせた。

俺が悠介を優先しなかった。

悠介はいつだって俺の我儘を

聞いてくれてた。

一何時でも。

今すぐ会わなきゃ、会って

どうなるかわからない。

だけどひとりにさせたくないんだ。


「佳苗ちゃん、お願い、悠介をひとりにさせたくない」


ため息をついて佳苗が言う

「伏見稲荷大社」


「え、」


「そこに一人で行くって。なんで私が

アンタらの恋のキューピットしなきゃいけないのよ」


「凛太郎くん!まって!」


「環奈ちゃん、いまそれどころじゃ、」


環奈ちゃんが渡してきたのは

お揃いの色違いのお守り。


「これ渡してあげてください

ふたりで持ってて欲しいです」


「ありがとう!」


佳苗が隼人の胸ぐらを

掴んで言った。


「あんた、わざとでしょ」


「俺は平和主義者なんでね、なにがなんだか」


こいつだけは気に入らない。

佳苗がそう思っていた時

一瞬ふわっと環奈が隼人に

近づいた。


「次、こんなことしたら


てめえの家族ごと

日本にいさせなくしてやんぞ♡」


環奈は有名な貿易商の

ご令嬢なのを環奈だけが知っていた。

お嬢様なのを隠しつつ

普通の中学に通っていたのだ。


「あの二人、無事に会えるといいんだけど」

「会えますよ。愛がありますもの」



悠介、すぐ行くから


そしたらきっと。


きっと。


同じ気持ちでいれるなら、


お守りを握りしめて

凛太郎は走った。


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