episode10 修学旅行②

佳苗が残念そうに言う。

「結局、清水寺はクラス行動にはいってたわね」


「まあ…メインと言ってもいいくらいだろ」


「あのバカに負けたわ」

佳苗からどす黒いなにかが

出ているのが見えたような。


清水寺の近くのお土産や

母親がリクエストしてきた

ようじやのものを買った。


「ゆーすけえー!こっちぃー!」


なんだろうここの坂道は

お香なのかわからないが

とてもいい香りがする。


「どうした?」


「みたらし団子くおーぜー!これこれ!」


「へえ、長方形みたいな形なんだ

しかも抹茶も飲めると」


「よきだよな?!な?!」


「俺、抹茶すきだよ」


「グループ行動に無駄な時間なんてないのよ!

ほら、急いでっ!」


隼人が

「佳苗って、黙ってたらキレイ系?で

モテそーなのにキャラが濃すぎるぜ」


「隼人!聞こえてるわよ!」


佳苗は地獄耳だ。凛太郎が笑う。

ずっとこのまま、凛太郎が笑ってる

姿を見ていたい。


凛太郎のしあわせは俺のしあわせ。


このいい香りを俺はずっと

忘れないだろう。


思い出せば、凛太郎が笑ってる顔が

蘇ってくる。


こんな小さいしあわせが

このときの俺に必要だった。


「ここね、はあはあ」


「走る必要あった?暑っついよ」

凛太郎が座り込む。


「とりあえず入るわよ」


ガラッと引き戸を引くと

かなりの人数がいた。


「すみません、5人なんですが座れますか?」


丁度、今掘りごたつの席が

空いたらしい。

タイミングのよさも運がよかった。

いや、走った佳苗のお陰かわからないが。


「もちもーちぃ!悠介!1本ちょーだい!」

お腹が満たされなかったのか

凛太郎がいつものくれくれ作戦をしてきた。


「ん」


「悠介!あんたが甘やかすからこのアホは

いつまでたっても小学生以下なのよ!!!」


「佳苗ちゃあん、厳しい~

あーむっ!」


頼むから静かに、抹茶を

飲ませてくれと祈った。


(ふーん)


佳苗含め隼人までもが、悠介の想いを

気づいた。

隼人が気づいたことによって

この後あんなに苦しくなるなんて

悠介は想像もしていなかった。


しあわせな、ただ凛太郎が

笑っている。

このしあわせが

俺から無くなったらどう

生きていけばいいのだろう。


凛太郎、ただ君だけの幸せを願っている。


「にがっ」


抹茶の苦さに似た

なんとも言えないこの気持ちを

誰か名前をつけて。



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