episode8 仲間

修学旅行は京都、大阪、神戸

三ヶ所を回る5泊6日のスケジュールだ。


自由行動もあるが、

ほとんどがグループでの行動だ。


「俺、5番!」


凛太郎が叫んだ。

「修学旅行までおまえと一緒かよー!」と

同じクラスの隼人が言う。


5番、5番と願いながら

引いたのが


「あ」


5番と書かれた紙だった。


「ゆーすけ!何番?!

え!5番じゃーん!やぱ俺ら運命共同体?ってやつ?」


「お、も、た、い!」


内心胸が苦しかった。

この運の強さに自分でもびっくりした。

修学旅行なんて乗り気じゃなかったが

凛太郎と一緒なら絶対楽しいに決まっている。


「ほんと、運命って残酷よね」


「え」


佳苗が5番の紙をちらちらと

見せつけている。


「お前も一緒か、なんかほんと運命だな」


「なんであたしがあんな

アホな凛太郎と一緒なのかしら」


佳苗は凛太郎とよく

言い合いをする。

まあそれも途中で佳苗の

言葉には勝てなく俺に泣きつくのだが。


「じゃあ5組のメンバーは

隼人くん、凛太郎くん、悠介くん

佳苗さん、環奈さん、で決まりです。

それぞれの班はグループで回るところを

話し合ってください。」


早速だ。


「おーれーは!この京都国際ミュージアムに

行って漫画の歴史をみたいんだ!」


「最初に清水寺に行かない

バカでアホがどこにいんのよ!」


こりゃ長く持たないなと

思いながら自分がどこに行きたいのか

調べていた。

離婚する前、京都に行ったことがある。

だが、そこがどこなのか思い出せない。

頭を抱えながら悩んでいると


「く、黒岩くん」


中屋 環奈。

初めて話す相手に戸惑う。


「ど、どうしました?」


「黒岩くんずっと探してるけど

それ見てもいいかな

もしかして行きたいところ載ってない?」


「あぁ、載ってない、というか

思い出せないんだ、ありがとう」


「思い出せないって京都のこと?」


あまり話したくは無かったが

それとなく言ってみた。


「なんか、一本道で秋になると

すごく綺麗で「伏見稲荷大社!」

大きな声で言われてびっくりした。


「悠介ー、そこ行きたいのかあー?」


伏見稲荷大社。

検索したらすぐ出てきた。


記憶が蘇ってきた。

長い一本道にぐずって泣いたこと。

父親がおんぶしてそのまま寝たこと。


「悠介、大丈夫か?」


「あぁ、ごめん、大丈夫」


環奈が言う


「合ってたかな…?」


「うん、ありがとう」


凛太郎がいる。

あの頃の泣き虫な子供の俺じゃない。


きっとこの修学旅行は

楽しい旅になるだろう。

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