episode7 悠介

物心ついたときには

両親の関係がよくないことには

気づいていた。

そんな素振りまったく見せない

母親と違い、父親とはまともに

話したこともないくらいだった。


優香だけは、父親に懐いでいた。


女の子が産まれて父親は

嬉しかったのだろう。

「パパ、これねお馬さんなの」


「パパ、お馬さんすきだもんね?」


そうだねと、優香の絵を

見ながら父親が笑っている。


優香が最後に話した言葉を

俺は忘れない。


「パパ、だいすき」


父親は微笑んで、大きな荷物を持って

うちを出ていった。


俺が小学5年、優香が幼稚園の高学年。


はっ、と目が覚めた。

夢を見ていた。


明日は学校だ。凛太郎に会える。

楽しみなのに。

父親のことなんて思い出したくはなかった。

あの人がいま幸せに暮らしているのかと

思うと憎しみしか出てこない。

優香が話せなくなったのも

離婚して1年たったころだった。


「凛太郎…」


目を閉じる。

凛太郎が笑ってる。


呼吸がしやすくなっていった。


大袈裟といえば、そうなのかもしれないが

凛太郎は俺にとっての安定剤なのかもしれない。


はやく会いたい。


あの笑顔が


あの声が


こんな俺を飽和していくんだ。


学校まで歩いていると、


「ゆーうーすーけー!」


走ってくる笑顔が可愛く思える。


「そんな走って危ないだろ」


「悠介!修学旅行だぞ!」


そうあと1ヶ月で僕たちは

修学旅行だ。


そしてあの事件がおきる事となる。

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